wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

波多野澄雄『国家と歴史』

今日は朝から研究会で10.5本の報告を聞く。精緻な実証、概説、考古学研究者の一部にみられるぶっ飛んだものまでいろいろあったが、勉強にはなった。山林資源の問題がほとんど取り入れられていなかったのは残念だったが、自分でやるしかないのだろう。久しぶりにお会いした何人かにご挨拶をしたが、当ブログが見られているのにはフリーズしてしまった。知らないうちに同業者には認知されるようになっているようだが、取りあえず電車読書の記録を残しておくhttp://www.chuko.co.jp/shinsho/2011/11/102137.html。著者は法学系の大学院を出た後、外交史料館防衛庁戦史部を経て大学教員になった日本政治外交史研究者で、教科書検定・日中歴史共同研究・日米「密約」問題に関する有識者委員会など政府の進める事業に深く関与している。「体制派」の著作は読まないのだが、立ち読みした際に学生レポートで利用できそうな感じもあったので購入したもの。戦後直後の政府自身による自主裁判・戦争責任追及の試みの動きと実際の経過、とりわけアメリカの占領政策の変化で日本の復興と政治的安定が重視されアジア諸国への配慮は軽視されたこと(軍人恩給52兆円に対してアジア諸国へは経済協力など準賠償を含めても1兆円)、敗戦により植民地を手放したことで「脱帝国」化の努力をせずに一方的に誰が「国民」化を決定した経緯。そうして精算されずに封印されてきた戦後補償問題が、中韓などアジア諸国との関係正常化以後に噴出する状況が政府の「侵略戦争」認識の変化とともに現在までの状況が整理されている。沖縄「集団自決」に関する教科書検定意見について軍の強要を否定したり誘導したものではないという弁解、多様な歴史観の共存を保障するという観点からの「つくる会」への擁護(著者がそれに全面的に賛同しているわけではないが)などただちに納得できない点もあるが、それぞれの問題群についての叙述は要を得たもので、レポート用には利用できそうだ。