wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

小林茂『外邦図ー帝国日本のアジア地図』

本日も午後から教養講義科目が始まった。前期の状況などから予測はできていたのだが、やはり受講者が少なすぎる。採点のことを考えると少ないに越したことはないともいえるが、教室の雰囲気などを考えるこちらからの一方通行になる教養講義科目は50名ぐらい出席していた方がやりやすい。本日は概要説明をしたあと世界の暦の話だけで終わってしまったが、理系の学生といっても天文学の基礎的知識が欠如した天動説に立った感想も目についた。この大学に限らない傾向だが、考えるとか疑問を持つという力がこれほどまで失われてしまうと特にしんどい。気を取り直して電車読書のほうは、この間に少しずつ読み進めていた表題書を読了。現在一般に外邦図と呼称されている、明治から第二次大戦までの間に現日本国の領土外の地域について日本で作成された地図について概観した一般書。ただし著者も認めるようにこの定義は現在日本からみたもので、強圧的な沿岸測量、朝鮮政府の了承(関係者の随行)を一応得た「旅行者」としての活動、日清・日露戦争時、中国政府の了承を得ない秘密測量、台湾・朝鮮での植民統治のための活動、戦争による他国の地図の押収とリメイク、偵察飛行など、公然と行われたものから、秘密裏に殉職者を出しながら行われたもの(測量に従事した軍人は戦死者と異なり靖国にまつられなかったようだ)までまちまちで、用いられた技術も時期と条件によって様々である。これらが一括して意識されることになったのは第二次大戦敗戦時における焼却命令で、大量に処分される一方で一部が軍から関係者を通じて大学に持ち込まれたという(米軍押収のものもあり)。その後は各大学で存在は知られながら放置されていたのが、近年になって全貌が調査されるようになり、その中心メンバーである著者が一般向けにまとめたもの。偶然だが昨年著者の九州北部における環境史の報告を聞いたことがあり、本書によると沖縄の環境変化の研究からこのテーマに入ることになったらしい。確かに植生変化などの検討には有効な史料になると感じる一方で、現在でも23000種類の外邦図を所蔵しているのが、防衛省でも防衛研究所のようなアーカイブ機関ではなく、陸上自衛隊中央情報隊という作戦機関であり非公開になっているということで、いまだに地図が軍事情報としての意味を持ち続けていることが改めて意識された。http://www.chuko.co.jp/shinsho/2011/07/102119.html