wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

服部龍二『日中国交正常化』

昨日は学会で午前中から二報告と討論(途中で昼食休憩と史料ネットの報告も)、全体会懇親会に部会懇親会と続き、いろいろな方とお話しできた。今年度は部会に全く行かなかったため身近な方も久しぶりで、10年ぶりぐらいの先輩をはじめとしてまさかという顔ぶれにも出会うことができ充実した一日となった。ただ飲み過ぎたこともあって今日は半分ぐらい電車で寝てしまったが、それでも読了したのが本書。書店で見かけて何となく衝動買いしてしまったもので、オーラル・ヒストリーを駆使した田中角栄首相・大平正芳外相・外務官僚の動きは興味深く、安岡正篤が登場する場面はこういうところなのかというのもわかった。ただし当時の報道された事実を否定するのみで、報道がその後にどのような影響を与えたのかについては触れられておらず、わざわざ新書媒体にしたとしては不親切なところ。また田中首相尖閣列島問題について発言したのに対して、周恩来が「今回は話したくない、今は、これを話すのはよくない・・・」と解答したことで、周恩来をステーツマンと持ち上げておきながら、それを理由に日中間に領土問題はないと断言するのも疑問。「日本人はあの戦争を忘れないし、そのことを前提に中国人が寛容の心で日本と向き合う。そして日中両国は、ともに善隣友好関係を築いていく。それが日中講和の精神だろう」という結論が田中・大平の意志であり、著者もそれに賛同しているのだろうが、当時のあうんの呼吸による決定が後に問題をもたらした側面も少なくない。右派に配慮したのは日本の国内事情から仕方ないではなくもう少し距離を置いたスタンスも必要だったように思われるhttp://www.chuko.co.jp/shinsho/2011/05/102110.html