wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

『河音能平著作集4巻中世畿内の村落と都市』

昨日、下のポストをのぞくと届いていた。2007年に河音夫人から著作集刊行の希望が出され、同年夏に教え子らが集まり作業を進めることになった。生前に刊行された著書の論文および晩年に発表したどの著書にも収録されていない文章を、新たに5巻にまとめ直して刊行するという方針のもと、、当方は4巻の校正を吉井敏幸・金泰虎両氏とともに担当することになった。私自身は後進が個人の著作をバラバラにして刊行することには抵抗があったのだが、教え子の一人としてかかわり凡例にも名前が掲載されている(ただし最終校正には関与していない)。このうち11章「中世前期大阪の荘園と公領」はもともと『大阪府史』が原型となっていることもあり、既刊の『大阪の中世前期』では細かい史料出典が記されていなかった。校正のためには一から史料に当たって確認する必要があったこともあって(一昨年の後期に非常勤先の図書館でひたすら史料に当たっていた)、新たにほとんどの史料に出典を加えたのが目新しいところ。また第3章「高槻における中世荘園村落」は編集方針からすると異例の1974年刊行のもので、内容は別の論文の繰り返しで生前著書に収録されなかったのは当然と言えるが、摂関期から室町期までの時代像を通観したという点では貴重なものになっている。校正はいろいろと困難があったが、ちらほらと独特の河音節が披瀝されている点は懐かしい思いに浸ることもできた。河音能平(かわね・よしやす)の歴史学は文書の読解から立ち上げるというスタイルではないため、実証的にはいくらでも問題を指摘することができる。その一方で広い視野に立った独創的な問いは、簡単に色あせることはなく今でも克服されていない課題となり続けている。本巻の畿内論もその一つで自身の課題でもある。その点で若い研究者にも是非読んでほしいと願うものであるhttp://www.bunrikaku.com/book3/index.html
*「個人の著作」→「故人の著作」2/16