wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

デイビッド・クリスチャン『オリジン・ストーリー』

本日はルーティン姫路、ましにはなったが指のしびれはまだ残っており、1時間年休をとって病院で点滴と電気治療。あと2回で完治するかどうかは微妙か…。ただ少し待たされたこともあって、衝動買いしていた表題書を読了。副題に138億年全史とあるように、宇宙・恒星と銀河・新しい元素・衛星と惑星と惑星系・生命・人間・農耕・人新世を8つの臨界として描いた「ビックストーリー」。著者はロシア皇帝アレクサンドル1世の行政改革に関する論文でオックスフォードで博士号をとり、オーストラリアで教鞭をとって1989年に「世界史入門」というリレー講義を組織したが、同席して関連書籍を読み漁って一人で担当できるようになったという。半分以上が宇宙論・物理論・生命科学などいわゆる理系学問の解説だが、ある程度は理解できたように思える。訳者は以前に紹介した『サピエンス全史』と同じで、文章もこなれてはいる。人類の存在そのものが地球を左右できるようになってしまった現状が、逆にこのような長期的な視点を必要としていることもよくわかる。著者も第9の臨界という楽観論と悲観論を併記しているが、果たして人類そのものに未来はあるのか…。オリジン・ストーリー (単行本)

橈骨神経まひ

本日起床も右手に力がはいらずボタンが留められない状態。そのまま症状は治まらず、ラーメンを作ったが箸も持てない有様。仕方なく大学を休講にして病院に、真っ先に思い付いたのが脳疾患で、内科医もその判断で首のレントゲン・MRIで検査したが異常なし。いちおう総合病院だが、治まらなかったら水曜日に整形外科とのこと。ただそこまで待ってられないので、専門医の午後診療を受けるとあっさり表題の診断に。どうも酔っぱらって寝相が悪いのが原因らしく、午前の治療費1万円弱は全くのムダ金に。ただ治療は厄介で現在は右手にギブス装着、明日の講義は大仕事になりそうだ。しかも治る場合もあるが、下手したらそのままになることもあるらしい。ちょっとこの商売では致命的で、大したことにならないのを願うばかり。そもそも引っ越しは19日、国保もその日までで最悪のタイミング。

NHK「ETV特集」取材班『証言治安維持法』

本日は千里山ということで電車読書の備忘。記憶が正しければこの夏に二週にわたって放映された番組をそのまま書籍化したもの。内容はわかっており「買って応援」といったところだが、年代別・国内および植民地という地域別の検挙者がデータ化されており有益。また共産党壊滅以後も特高・思想検事のために拡大解釈されていく経緯と裁判所が何の歯止めにもならなかった状況は今に大きな教訓となるもの。同特集はブラジル移民・原発事故がらみなど他にも書籍化してほしいものがいくつかあり、そちらも期待するところ。証言 治安維持法: 「検挙者10万人の記録」が明かす真実 (NHK出版新書)

関沢まゆみ編『菓子と果物』

今週は土日出勤のため勤務が不規則。昨日は100万円近くで購入した書籍を25000円で手放し、本日は新居近くで自転車を購入し、近くの量販店で家電選び。といってもほぼ販売員の言いなりだったが…。そんなわけでいただきものの表題書を読了。「栗とトチ・どんぐり」・「柿」・「みかん」・「飴」・「饅頭と汁粉・善哉」・「羊羹・蒸菓子・干菓子」・「粽と柏餅」・「カステラと菓子パン」(副題は略)で、最後を除き中世史でもいろいろ可能性が感じられ勉強になった。名称としての「カシワモチ」は全国にあるが、包む葉は多様で葉包み食の総称だというのも、名称の広がりという点で興味深い事例。歴史的展開と地域性をつなぐものとして食文化史は重要な課題。それにしても昨日・本日は急にアクセス数が増加。YAHOOと異なりどの記事なのかがわからず不可解な現象。日本の食文化 6: 菓子と果物

平瀬直樹『塩田の村「有光家文書」の中世的世界』

本日は千里山、史料講読は四人まで減ってしまい人との接し方の下手さを改めて実感、来年度は講義科目のみになるが、そちらのほうがまだ向いているか…。電車読書のほうは文書の中身が面白そうだったので衝動買いしていたもの。所蔵者から「有光家文書」と呼ばれているが、有光氏が入ってくるのは戦国期からで「正吉郷八幡宮宮司家文書」がふさわしいとのことで、しかも肩書は立派だが規模からいうとせいぜい荘園鎮守レベルの文書。そこから1点の絵図と23点の文書が選択され、六つのテーマにあわせてそれぞれ写真・釈文・現代語訳・解説をつけて紹介されている。文書は難解で判読されているが意味不明、もしくは文字があるが釈文が記されていないものもあるほど。ただ内容は大変興味深く、鎌倉末の絵図とそれを非常に詳細に説明した文書がある、人身売買文書がまとまってある、想定される逃亡先として権門高家・神社仏寺といった一般的なものだけでなく、船之乗下・市町之辻等といった表現がみられる、三輪流神道関係の文書、などいろいろ勉強させてもらった。ただ絵図の段階で塩田は機能不全となり、その後は水田化されるということなのでタイトルはやや疑問。

塩田の村: 「有光家文書」の中世的世界

瀬畑源『国家と記録』

もう10年ばかり概説系の講義は歴史学にとっての史料の持つ意味をベースにした通史で、最終回は「近現代公文書の史料学」。官僚の自宅持ち帰りによって判明した事項・敗戦時の公文書焼却などに触れた上で最後は時事ネタで終わり、過去を知る上での史料の役割について総括している。はじめたころは警察裏金・核密約などだったが、現政権になって秘密法から始まり話題に事欠かなくなり、今年はモリカケだった。そういうこともあって参考文献にあげている著者の最新作も読了。今回はイラク日報・モリカケなど時事問題が前半で、後半は宮内庁宮内公文書館アジア歴史資料センター・著者が関わった安曇野市文書館など前向きの動きも紹介しながら、公文書の管理・保存・公開問題が論じられている。最後には三木由希子氏との対談「情報公開と公文書管理の制度をどう機能させるか」が収録され、韓国などの先進的な制度も紹介されておりいろいろ勉強になった。現政権が継続したままだと来年度は「桜を観る会」になりそうだが、それだけは勘弁してほしいところ。

国家と記録 政府はなぜ公文書を隠すのか? (集英社新書)

リン・ハント『なぜ歴史を学ぶのか』

本日は枚方3コマ、かなり喉がボロボロになったが何とか終える。電車読書のほうはカーの21世紀版という帯に惹かれ衝動買いしていたもの。四章構成で、第一章はトランプから書き起こされポスト真実歴史修正主義という現実を問題化、第二章は歴史学の方法論を事実・解釈のレベルから振り返り、第三章ではエリートの教養から研究者・対象の多様化という動向、第四章はドイツ系移民というルーツをもちアメリカで育った中産階級の女性という自身の歩みもたどりながら自分たちの歴史と他者の歴史の緊張関係からグローバルな歴史と過去へのリスペクトの重要性を指摘したもの。簡潔ながらアクチュアルに方法論が説き起こされわかりやすい。余談ながら学部一年生の吉田晶先生の入門ゼミで取り上げられたアイリーン・パワーが、草分け的な女性研究者だったことを初めて知る。なお巻末に読書案内があるが、カーとスコット『ジェンダー歴史学』以外は邦訳がなく、数行の解説だけでは内容はよくわからないまま。なぜ歴史を学ぶのか - 岩波書店

Twitter上で非常勤講師給与のことがあれこれ触れられているが、端的に言うと舐められているという以外にいいようがないのが現実。正当化する大学教員はせめて附属高校の単価と比べるぐらいはして欲しいもの。