wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

峯陽一『2100年の世界地図』

本日は西播磨で高齢者対象の講演会。電車遅延の可能性を考慮して時間的余裕をもたせたが、20分遅れで接続便に間に合わず15分遅刻する羽目に。焦った上にもともと算用状から地域社会をみるというなじみのない話で、受けたとは思えないが何とか終える。ただゆっくり寝ていく余裕がなかったため電車読書だけはすすみ、表題書を読了。秋の講義で現代史を取り上げる予定のため、図版の豊富さにひかれ衝動買いしていたもの。2100年の世界人口予測111.8億人のうち、アジア47.8億人・アフリカ44.7億人という推計値をもとに、両者をあわせた「アフラシアの時代」になるとし、15世紀末の西欧の拡大からの歴史的見通し、19世紀後半からの思想的模索をたどり、より平和で平等で、生態系と文化と個人の多様性を大切にするという楽観的な見通しを提示している。没落日本に生活し、なおかつ明日の巨大台風に象徴される環境問題などもあり、にわかに納得しがたいが人口構成の見通しは確かなのだろう。また著者はもともとアフリカ地域研究者ということで、軋轢があれば移動すればよく、帝国が成立しても時がたてばあたかも自然消滅するという「小人口世界」という捉え方、植民地主義を「マクロ寄生」とする見方など、いろいろ勉強にはなった。2100年の世界地図 アフラシアの時代 (岩波新書)

中野等『太閤検地』

本日は枚方3コマ、ヘロヘロになりながら何とか終える。そんななかでの電車読書の備忘。めっきりこの分野には疎く、何となく衝動買いしたもの。理念系を設定するのではなく、秀吉検地を信長家臣の段階から晩年まで時代順に整理。安良城説が中核とする「一職支配」と「作合」否定政策という生産関係論・個別経営掌握ではなく、村の領域確定と村請の始動を期したものと評価、社会的「富」を「石高」として「石高」として把握し、軍役の単位とするとともに、大名・給人が「鉢植え」の領主となった点に最終的な帰結を見出したもの。段階的把握とその到達としての島津領・上杉旧領越後検地という展開は素人目にはわかりやすく勉強になった。ただ文禄末年の石高として整理されている『当代記』の播磨国35万8534石は、摂津国35万6069.1石・大和国44万8945.5石・近江国77万5379石などと比して少なすぎる印象を受け、同一時期ではないと一定の留保を加えながら有用な記録として評価するが、それでも違和感が残る。

太閤検地-秀吉が目指した国のかたち (中公新書 (2557))

今津勝紀『戸籍が語る古代の家族』

本日は枚方第Ⅰ回目。どういうわけか昨年度より受講者が多く、講義内容も組み替えたためやや不安だったが、懸念していたよりもうまくいった感覚。もっとも評価は横に積んだ400枚ほどのペーパーに委ねられているのだが…。そんななかで読了したのが表題書。学部時代からお世話になっている方の著書で、千里山の講義とも関連。古代戸籍の概略を押さえた上で、人口分布、戸主男性を核とした婚姻のあり方、男女関係・ライフサイクル・慢性的飢饉における状況などを、諸史料を駆使ししながら説き起こしたもの。飢饉に関しては中世史の田村氏の研究が著名なのだが、一般書に組み込まれておらず、生活史・ライフサイクル史の奨励すべき著書として時宜を得たもの。

戸籍が語る古代の家族 (歴史文化ライブラリー)

第10回中世地下文書研究会のご案内

*当方も末席を汚している研究会の案内を転載します

第10回中世地下文書研究会を下記の通り開催します。科研費研究グルー
プの主催ですが、研究会自体は科研費メンバー以外も自由に参加できるオ
ープン形式で運営しますので、関心のある方はどなたでもご参加ください。
参加費は無料です。

                記

主催: 科学研究費基盤研究(B)(2018年度~2021年度:地下文書論による
   中世文字史料研究の再構築、研究代表春田直紀)共同研究グループ
趣旨:地下文書論の視点と方法により、紙媒体以外の銘文史料も含めた中
世文字史料の総合的な理解を深めていきます。今回は土佐国大忍荘
の地下文書と地名・石造物の調査成果を報告してもらい、議論して
いきたいと思います。

日時:2019年10月14日(月・祝)10時~15時
会場: 大阪市立総合生涯学習センター(大阪駅前第2ビル5階)第3研修室
   会場へのアクセスは下記URLをクリックしてご確認ください
https://osakademanabu.com/umeda/access

報告:10:00~村上 絢一 氏(京都大学
「柳瀬文書の原本調査成果について」
11:00~荒田 雄市 氏(滋賀県立大学
「行宗文書の原本調査成果について」
   13:30~楠瀬 慶太 氏(高知新聞社)〈紙上参加〉
「行宗文書の地名現地比定と室町・戦国期の土地開発
(参考文献) 
吉田萬作ほか1985『香我美町史(上)』、甲藤進一1989
「室町戦国初期、土佐大忍荘の在地構造」『瀬戸内海地域
史研究』2
   14:00~濱田 眞尚 氏(元高知県立歴史民俗資料館)
「大忍荘域の中世石造物について」

*本研究会への出席が確実な方は10月9日までに下記連絡先までメール
 でお知らせください(レジュメの部数確認のためで当日の飛び入り参
 加歓迎)。

【連絡先】
 春田直紀(熊本大学大学院人文社会科学研究部)
 E-mail: haruta*educ.kumamoto-u.ac.jp (*を@に変換すること)

小熊英二『日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学』

本日は上郡出張、ここ数年かかわっていた事業のひとまずのゴールが見え一安心。いつもの姫路よりも遅めのため少しばかり起きている時間があり、美濃行きから読み始めた表題書を読了。千里山の生活史で取り上げていることもあり、衝動買いしてしまっていたもの。日本社会の構成員が、「正社員・終身雇用」の人生を過ごす人たちとその家族からなる「大企業型」26%、地元で就職してそのまま過ごす「地元型」36%、長期雇用されていないが地域に足場があるわけでもない「残余型」38%からなるとし、ドイツ・アメリカとの国際比較、歴史的形成過程とその最盛期となった1970年代の「一億艘中流時代」を経て、80年代以降の非正規雇用の増大による「大企業型」・「地元型」の縮小と「残余型」の拡大による構造的行き詰まりを論じたもの。全体としては従来の諸研究を統合したもので大きな違和感はない。それにもかかわらずオリジナル性を過度に強調していて人には勧めにくいものになっているのが難点。たとえば著者が「大企業型」とした慣行は一般に1960年代に形成された評価されるのに対して、「戦前からの日本社会の歴史的経緯と、世界の普遍的な動向の双方が、からみあうなかで形成された」(559頁)として自説を区別するが、総力戦体制と職員と行員の「平等」を求める志向に寄ることは常識的、また律令の官位相当性の規定性が強調されるが、考課などもともと形式的で前近代身分制社会で定着していたのは官位ではなく官職であり全くのとんでも。しかも幾人かの先行研究を名指しで批判しているにもかかわらずあとがきで「ジャーナルには適さない」と記す始末。日本史分野でもたまにみかけるが、専門家による啓蒙という新書に求められている役割は自覚してほしいところ。

日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学 (講談社現代新書)

美濃・信濃旅行記

9月20日朝6:20に自宅を出て、在来線を乗り継ぎ岐阜まで出て、バスで関市へ。市立図書館で鉄座に関する文書が掲載されている自治体史をコピー。なお今更ながらここが刀剣関係の刊行物をもっともまとめて閲覧できる環境にあることを知る。その後はひたすら町歩きで中世の町場と近世に隆盛した街区を確認するとともに(なお行政上は関村)、関鍛冶伝承館https://www.city.seki.lg.jp/kanko/0000001558.htmlなどを観覧。発掘調査で中世の鍛冶工房も検出されているらしい。ただし観光客は数人で、シャッター通りが延々と続く。ところが唯一営業していたうなぎ屋は外からは信じられないほどの大繁盛で、2610円の並盛り天然ウナギを味わう。

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鎌倉期に二階堂氏を外護として建立されたと伝えられる新長谷寺(境内は撮影禁止のため外からの写真)

続いて、長良川鉄道美濃太田へ向かい1時間ほど余裕があったため宿場町を足早に散策。中津川から特急に乗り木曽福島に19時過ぎに着き、おばあさん一人でまわしているらしい旅館に宿泊。21日は朝から木曽福島を散策、関所跡の発掘調査では戦国期の美濃が出土しているらしく、中世に由緒をもつ寺院もちらほらあるのだが、木曽代官山村氏館をはじめ、近世に覆われてしまっているのが残念。

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木曽福島関所跡、発掘調査を実施して整備されたもの

続いて特急で立ったまま塩尻まで行き、各駅で茅野駅に。十数年前に訪れているが再び諏訪上社を少しだけ散策。山沿いに鎌倉道と看板のあるものを少し歩くが、実態は専門家に尋ねても不明。それというのも午後から諏訪市博物館で科研の文書調査。相変わらず余計なことばかり口走りながらいろいろ勉強させてもらう。みなさまありがとうございました。なお同書で開催されている企画展「仏法紹隆寺ー諏訪の真言道場 古刹の歴史」では『沙石集』の最古写本・鎌倉の醍醐寺法流の聖教などが展示され思わぬ掘り出し物でおすすめhttps://suwacitymuseum.jp/event/exhibit/7.html。調査は明日まで続くが当方は講義が始まるため途中で抜け帰阪。なお諏訪は長袖でも寒いぐらいだが、新大阪はむっとした暑さ。この間の全国的傾向なのだろうがやはりうんざりするところ。

布留川正博『奴隷船の世界史』

本日はルーティン姫路。以前作成したデータが思っていた以上に杜撰で、公開を想定していたわけではないにしろ、情けない限り。おかげで終わらせるはずの仕事も完成せず…。そんな中で秋の講義に向けて衝動買いしていた表題書を読了。奴隷貿易に関する国際的データベースが公開・更新されているようで、それに基づいて全体を整理した上で、個別の特徴的な航海をピックアップ、クウェイカー教徒(著者の表現)・国教会福音主義派主導の奴隷廃止運動(アボリショニズムと呼ばれるらしいが、ネットでも英語本来の意味はわからず、ゆる募ご教示)の流れを経て、制度廃止後の状況まで全体を見通すことができ、講義に利用可能な図表もあり有益。三角貿易は当初のみだったこと、奴隷貿易をめぐる権益としてのアシエント、廃止運動の性格など不勉強だった点を補うことができた点もありがたい。ただやや区切りが長く細切れの電車読書には少し不便なのと、川北著書が参考文献にあがっていないのは学派の違いか。奴隷船の世界史 (岩波新書)