wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師・研究員などとして生活の糧を得ていますが、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

小熊英二『日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学』

本日は上郡出張、ここ数年かかわっていた事業のひとまずのゴールが見え一安心。いつもの姫路よりも遅めのため少しばかり起きている時間があり、美濃行きから読み始めた表題書を読了。千里山の生活史で取り上げていることもあり、衝動買いしてしまっていたもの。日本社会の構成員が、「正社員・終身雇用」の人生を過ごす人たちとその家族からなる「大企業型」26%、地元で就職してそのまま過ごす「地元型」36%、長期雇用されていないが地域に足場があるわけでもない「残余型」38%からなるとし、ドイツ・アメリカとの国際比較、歴史的形成過程とその最盛期となった1970年代の「一億艘中流時代」を経て、80年代以降の非正規雇用の増大による「大企業型」・「地元型」の縮小と「残余型」の拡大による構造的行き詰まりを論じたもの。全体としては従来の諸研究を統合したもので大きな違和感はない。それにもかかわらずオリジナル性を過度に強調していて人には勧めにくいものになっているのが難点。たとえば著者が「大企業型」とした慣行は一般に1960年代に形成された評価されるのに対して、「戦前からの日本社会の歴史的経緯と、世界の普遍的な動向の双方が、からみあうなかで形成された」(559頁)として自説を区別するが、総力戦体制と職員と行員の「平等」を求める志向に寄ることは常識的、また律令の官位相当性の規定性が強調されるが、考課などもともと形式的で前近代身分制社会で定着していたのは官位ではなく官職であり全くのとんでも。しかも幾人かの先行研究を名指しで批判しているにもかかわらずあとがきで「ジャーナルには適さない」と記す始末。日本史分野でもたまにみかけるが、専門家による啓蒙という新書に求められている役割は自覚してほしいところ。

日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学 (講談社現代新書)