wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

金文京『漢文と東アジア』

後期の授業に利用できるのではと思い立ち、夏休みにたまった通勤読書ストックの順序を早めて、今週の車中で読了。内容は古代中国で成立した漢文文体が、言語の異なる周辺世界でどのように受容され訓読されるようになったのかを、中国における仏典翻訳を起点に、日本・朝鮮・契丹などの事例を紹介しながら、その相互関連を探るとともに、その後の中国にもフィードバックされる様相を示したもの。タイトルに違わないダイナミックなスケールを有しており、共通文字言語をもつキリスト教文化圏(ラテン語)・イスラム教文化圏(アラビア語)と異なり、漢文をそれぞれ独自の方法で読み下すことでそれぞれが民族的自意識を育てながら、筆談では通じ合うという訓読文化圏という独特の世界を形成していたことが興味深く論じられる。漢文訓読というと、石山寺における苦い経験から硬直した学問分野というイメージしかなかったが、東アジアスケールで考え直すことでこれだけの地平がもてることに感心させられる。中日朝(順不同)の古典と現在語を一人で使いこなすことで生まれた成果で、海域交流史とも通じ合い今後の研究の発展が予測され、注目しておきたい学問分野となった。節ごとのバランス構成が悪い、レベルが高すぎて学生向きとはいえないという欠点はあるが、考え方はふまえておきたいhttp:///www.iwanami.co.jp/cgi-bin/isearch?isbn=ISBN4-00-431262-0。せっかく少しは涼しくなったところで、頭の回転スピードを上げたいところだが、だらだらと授業準備にかまけてしまっている。何とか気合いを入れ直さなければならない。