wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

末近公太『イスラーム主義』

昨晩も朝のゴミ出しのために実家泊で、本日は通院介助、市役所で介護認定手続き、年金事務所で遺族年金手続き(何と「消えた年金」があるらしい)をこなし夕刻帰宅。そんななか秋の講義のこともあって衝動買いしてしまっていた表題書を読了https://www.iwanami.co.jp/book/b341730.html。19世紀のオスマン帝国解体期から現在の「イスラーム国」までの思想潮流を整理したもので、全体の流れを再確認する上では有益で、欧米研究者の最新の見方も紹介されている。ただあとがきで「イスラーム主義がわかる本」「中東政治がわかる本」双方を目指したとのことだが、どっちつかずの印象を受けた。著者自身の専門書があるレバノンのヒズブッラー(用語は著者による、恐らくアラビア語の表記に忠実なものなのだろう)にしても、思想としての位置づけでは内在的な理解がされているにも関わらず、別のところでは単なるイランの「革命の輸出」戦術の申し子と記されているだけで、そもそも過酷な中東情勢に規定されながら生まれた思想潮流を、このようなスタンスで位置づけるのはどだい無理がある印象を受ける。また「いわゆるパレスチナ問題は、本質的にはパレスチナという一つの土地を「アラブ人」ーないしはパレスチナに暮らす人びとである「パレスチナ人」ーと「ユダヤ人」という異なる民族/国民が、それぞれの独自の国民国家を建設するために独占しようとすること、つまり、ナショナリズムから生じた紛争であった」(88頁)という叙述にも大いに疑問。また副題には「もう一つの近代を構想する」とあり、終章のタイトルともなっているが、現状をいかに軟着陸させるかという議論以上のものを受け止めることはできなかった…。それにしても医者も驚くほど父の衰えは急速で、食欲もほとんどなく、途方に暮れるばかり…。