wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

水島朝穂『戦争とたたかう』

夏休みに入ったとたんに、早くも酷暑で体温調節機能が崩壊。夏風邪・仮死モードに突入し、ひたすら寝込んでしまっている。その上に、世間がお盆休みに入ったことに気づかず、やっかいなメールを送りつけてしまい反省することしきり。本日も先ほどまでの昼寝からようやく起き上がったところで、鼻水が断続的に出ている。そんななか試験期間の電車読書で読み始め昨日読了した本書の備忘を書き留めておくhttp://www.iwanami.co.jp/moreinfo/6032610/top.html。新版が刊行されたのは本年6月なのだが、元版は中曽根内閣期の1987年刊行。1941年3月に東大法学部を卒業後、海軍主計大尉として日本本土・台湾で勤務した中曽根に対し、同時期に京大法学部を卒業し、民間企業に就職するも徴兵で満洲に送られ、陸軍主計学校に志願して、主計少尉として「ルソン決戦」を戦い、戦後は「平和的生存権」実現のために活動した憲法学者久田栄正の体験記を、1953年生まれの著者が聞き取ってまとめたもの。久田は移民商人の子供として北海道屯田兵村で育ったころから反軍精神を有し、旧制高校で「アンチ・ミニタリズム」、京大時代にはマルクス主義文献の秘密講読会に参加し、「国賊・非国民といわれないように国賊・非国民」をやろうと決意したという。徴兵当初は初年兵として私的制裁の日々を過ごすも、満洲で幹部候補生試験に合格し、主計将校として南方戦線に送られた。本書の特徴は聞き手である著者が軍隊の実態・マニラ戦の詳細についてかなりの準備をしていることと、久田自身が捕虜収容所時代から詳細な記録を書き残していることにあり、その両者がつきあわされることで個人の体験にとどまらず全体として昇華され、久田自身の「反軍精神」の限界をも浮かび上がらせている点にある。その点で単なる体験記にとどまらず、現代でも充分に読み応えのあるものになっている。その一方で久田ほど自覚的ではなかった人々が共通に有した悲惨な戦場体験が「戦後平和主義」の根幹にあったこともたしかで、大半の人々が当事者意識を失ってしまい、なおかつ加害体験が突きつけられている現在において、「改憲ごっこ」に邁進するお坊ちゃまたちとどう対抗していくかは大きな難問になっている。ポツダム宣言受諾から68年目の日に・・・。