wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

松尾秀昭『石鍋が語る中世』

本日は枚方、寒波もあって京阪はかなり空いてきた。相変わらず仕事は回っておらず、本日も期限切れ催促メールを二件も受ける羽目になったが(電子媒体はその場で対処しないと記憶から飛んでしまう…)、電車読書の備忘だけ残しておく。某書店のフェア10000円に少し足らなかったこともあって、衝動買いしてしまったものhttp://www.shinsensha.com/detail_html/03kouko/1832-2.html。「遺跡を学ぶシリーズ」の一冊で、ホゲット石鍋製作遺跡にほど近い佐世保市教育委員会所属の著者による概説書。保温効果のある滑石製石鍋について、製作遺跡(ホゲル=穴を開ける、トウ=穴)からみた製作過程、先島諸島から十三湊までに及ぶ各地の出土例、文献・絵巻物からの使用例をあげ、高級品として11~16世紀にわたって流通していた状況が示され、その担い手について海人集団の活動に触れられており、全体像を知る上で有益。現地に製作遺跡が残る一方で大規模集落や集散地が確認されていないこと、山陰では確認されず中部地方もまれな一方で、能登半島・鎌倉・東北ではそれなりに出土していることなど、その特異な様相が示されている。一時は中世考古学の寵児になり最近はあまり聞かなくなったが、ちゃんとした出土事例の集成が必要だということを感じた次第。なお五輪塔の「海夫 道浦」について、「海夫」が法名と説明されているが、ちょっと信じられない解釈。その他に十三湊を「戦国時代に成立」など違和感のある表現がいくつか見られた。