wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

加藤陽子『戦争まで』

先週火曜日が結局台風休講になったので、大学は今週から。昨日が講義160名程度と講読が春の続きの政基、本日が夏期空調終了教室で2限講義が238名・3限と4限がそれぞれ100名づつぐらい、私語はほとんどないとはいえさすがにぐったり。昨年より100名以上多く、カードチェックも火水で終わるかどうかという量に。そんな中で電車読書の備忘。新しいことが述べられているという噂を拾ったため衝動買いしたものhttp://www.asahipress.com/sensomade/。28人の中高生相手におこなった講義をもとにしたもので、村山・安倍談話を手がかりにした歴史認識と戦争のとらえ方の方法論からはじまり、リットン報告書の対応・日独伊三国同盟締結・日米交渉における諸勢力の動向をたどった上で、敗戦と憲法についてでまとめられている。リットン報告書に関してはそれを評価し中国国民政府が政治的対立を軍事対決に至らずに解決できる政府だというアメリカ人の見解に続いて、状況が異なる国共内戦を持ち出してみたり、著者得意の当事者の立場に立った政治史に少し辟易したところもあった(頭では理解できるが反対派が納得しないと問題は動かないというのは、ともすれば現状肯定にしかならないというわだかまりがぬぐえない。従軍慰安婦に関する議論ではさんざんみたし、歴史修正主義が跋扈する現状ではあきらめるしか仕方ないという結論にしかならない)。しかし軍部が余りにもひどいのと(陸海軍で全く統一がとれておらず、自身を被害者扱いし、情勢は希望的楽観でしか判断しない)、受講生の質問に動かされることで次第に外部の視点を導入し、最後に空襲・沖縄戦日本国憲法の制定過程まで見据えることで、現実の情勢と緊張感を持った歴史書として説得的なものとなっており、著者自身もこれまでになくそれを全面に押し出した発言をしている。三国同盟第一次大戦で獲得した旧ドイツ植民地の安定的確保という意味をもっていたこと、日米交渉の過程でアメリカのカトリック勢力に反ソ協力という現実的選択肢があり、昭和天皇周辺にすでに接触していたことなど、いろいろと新しく知ることも多かった。