来週の講義準備のため読みさしを読了。東浅井郡大郷村で兵事係を1930年から勤め、敗戦時に関係書類の焼却命令を無視してリアカーで自宅に持ち帰り、家族にも秘匿していたが2006年に初めて存在を公開した西邑仁平さんに対し、翌年から本人および実際に徴兵された人々や遺族を取材して2011年に刊行されたものの文庫化(西邑さんは2010年に105歳で亡くなられた)。富山県庄下村の事例は中世史研究者が関わったこともあって既知だったが、こちらは不勉強で今回初めて知ったもの。著者はジャーナリストで文献の分析はありきたりにもみえたが、召集令状・死亡通知を実際に渡した際の反応、さらに受け取った側の状況については非常に生々しく、西邑さんがそれを鮮明に記憶し続けていたことも、村に居住して直接的に徴兵実務に携わる兵事係というポジションの重さを感じ取れる。なお吉田裕氏の解説があり、兵事係が直接徴兵対象者を選択しているわけではないが、在郷軍人の健康状態のチェックは兵事係の仕事に含まれており、予備役応召はそれをもとにしていることを指摘。また「根こそぎ動員」が学徒動員と同じく、甲種合格者のみが何度も招集されるという現実に対して、「犠牲の平等」を求める国民の要求に応えるものという側面があったとするのが近年の研究動向とのこと。