wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

曽根ひろみ『娼婦と近世社会』

予告通り本年最後の電車読書の備忘。春のカタログ販売で購入して積ん読になっていて、ちょうど途切れたタイミングでようやく読了(先日、秋カタログと新本屋で12冊積んだところ)。初版は2002年で90年代論壇の「自由意志による売春」という議論に対して、やくざ・夫などが吸着した隠女売稼業の都市における広がりを明らかにして、大衆的売春社会と捉えたもの。公娼としての遊女の外に、飯盛女・酌取女・茶汲女・熊野比丘尼・夜鷹・惣嫁・丸太・舟饅頭・ピンショ・蓮葉(「はすっぱ」の語源なのだろう)・綿摘み・提げ重など多様な存在があり、なかにはいわゆる「枕営業」的なもの(著者の言葉ではない)もみられるようだ。近世社会には夫をもつものの「密通」以外に倫理的に指弾されることはなく、初期には厳罰が科せられていた公娼以外の隠売女も「稼ぎ」として容認され、梅毒も忌避されることはなかったとのこと。また密通とされるものには奉公人男子による主家の女子への暴力によるものが少なくなかったという。身も蓋もないところも多いが、全体像が理解できて有益。

娼婦と近世社会〈新装版〉 - 株式会社 吉川弘文館 歴史学を中心とする、人文図書の出版

それでは皆様よいお年をお迎えください。