wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

中塚武『気候適応の日本史』

引き続き電車読書の備忘。樹木年輪のセルロース酸素同位体比の活用によって年単位の夏の気温と降水量の復元を成し遂げた著者が、その方法論を説明するとともに、1200年周期の長期変動、40年の中期変動、1年単位の短期変動、それぞれが歴史に何をもたらしたかを地球研での共同研究の成果をもとに概説し、過去の気候適応の様態を人類史に学ぶことができるという。あとがきに「日本史の文脈に沿うことを念頭に置いて、本書を執筆した」とあり、地球研の古代・中世はすでに目を通していたので、全体的にはわかりやすく、特に最初の方法論の展開は今更ながら納得したところ。著者は「未知の中周期の発見」だけに焦点を当てた、従来の日本史の議論を完全に度外視した「尖った本」も執筆予定とのことで、そちらでまた考えてみたい。なお『日本史研究』の大会報告批判でちゃんと触れていなかったような気もするが、14世紀に飢饉史料が少ないのは、市場経済で調整されていたというよりは、やはり戦争によってかき消されてしまったと考えるべきではないか。

気候適応の日本史 - 株式会社 吉川弘文館 安政4年(1857)創業、歴史学中心の人文書出版社