wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

井上文則『軍と兵士のローマ帝国』

本日は枚方3コマ。帰りは駅まで20分ほど汗だくになりながら歩いているが、行きは別ルート30分近くのバスと合わせて、都合90分ということもあって、表題書を読了。ローマが帝政初期から給与が支給される膨大な常備軍を備えており、少数しかいない官僚の代替機能も果たしていたこと、その費用としてシルクロード交易からの関税収入が充てられいたらしいこと(これは筆者の考えだが充分な実証はなさそう)、2世紀後半のユーラシア規模の寒冷化のなか、軍司令官が当初の元老院議員から職業軍人に転換したが、軍の影響力を増すことになり軍人皇帝時代に突入すること、4世紀の気候変動でフン人の西進から玉突き民族移動によって、従来の機動軍にかわって異民族が同盟部族軍に編入されること、軍は専属の駐屯地をもたず民泊方式だったため、それが逆に西ローマ帝国のゲルマン化をすすめることになったこと、その一方で異民族の侵入が地理的条件から限定的だった東ローマは存続したが、もともとヘレニズム世界の一部であり、西ユーラシア世界という範囲で観た場合、ローマがヘレニズム世界を支配していた時期こそがむしろ例外で、それを可能にしていたのが軍隊であったという。なお著者は軍事史ではなく政治史が専門であることを強調しているが、万単位の戦争で兵站の説明が全くなかったのが問題。前近代の常備軍というと宋が思いつきあとがきで触れられているが、もともと社会政策として成立した宋と、帝国膨張に役割を果たしたローマとでは位置づけは異なるようにみえる。

軍と兵士のローマ帝国 - 岩波書店