wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

天野忠幸『三好一族』

本日はルーティン姫路。ただついに改修工事が本格化し、書庫も梱包まで風前の灯火・・・。そんななかで読みさしの表題書を読了。三好長慶周辺から本格的研究をスタートさせた著者による、史料徴証がみえる15世紀末から近世の行く末までの全体像を見通したもの。自説に寄せられた批判のいくつかについて明記した上で訂正するなど、叙述態度は誠実だが、新書に収めるには時期幅が長すぎ。当該期の研究は精緻化が進んだ結果、多数の関係者の動向を踏まえないと理解できなくなっており、それを圧縮しているためひたすら人名のオンパレードになってしまっている。とりわけ長慶の作った枠組みが畿内政治史を信長の動向まで強く規定しているという以前からの主張が、逆にぼやけてしまっているように見える。比較的少ない頁数を最大限に広げるか、地図を用いて刻々と変わる勢力分布図を示すなどの工夫が必要だったのではないか。なお改めて気づいたが著者は目次の前にエピローグ的な叙述(本書では「はじめに」)を記し、最後に展望とまとめ(「終章」)で終え、楽屋落ちは最小限で一貫している。確認すると以前にもあったが、本書にも成立事情・謝辞は一切記されていない。ただやはり画竜点睛を欠く印象は拭えない。

三好一族―戦国最初の「天下人」|新書|中央公論新社