wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

玉木俊明『金融化の世界史』

本日は千里山2コマ。まだ10回目だが試験問題は来週には提出しなければならないとのこと。そんななか電車読書の備忘。日本中世史ならK田氏・中国史ならO本氏と、それぞれの分野で多作な方はおられるが、西洋史では著者が挙げられるだろう。そうなると逐一購入するのも飽きてきて敬遠していたのだが、非常勤組合でお世話になっているのとタイトルに惹かれたため入手したもの。18世紀の西欧を消費社会、20世紀のフォード以降(本書でフォーディズムは用いられていない)を大衆消費社会と捉え、後者で経済成長と格差の縮小が実現。1980年代以降のネオリベラリズム以後は金融化により所得格差が拡大したが、金融インフラ・タックスヘイブンなどのシステムは大英帝国時代の密輸基地が前提となっていること、GDP計算にかつては除外されていた金融が含まれ無形資産の過剰評価とともにいびつな構造が拡大しているとする。立論のそれぞれに典拠文献が明記され、最後のGDPについては著者自身が翻訳したヤコブ・アッサ『過剰な金融社会』に依拠しているとのこと。著者が一国単位の視点として批判するピケティは一時話題になったが、アッサについては全く知らなかった。金融活動による利益を含まないFGDPで計算すると1990年代から経済成長そのものが存在しなかったらしく(ただ何を対象としているか本書だけでは不明)、重要な指摘に見える。

筑摩書房 金融化の世界史 ─大衆消費社会からGAFAの時代へ / 玉木 俊明 著