wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

梁英聖『レイシズムとは何か』

本日はルーティン姫路。火曜日がリモートになったため、読みさしの表題書をようやく読了。レイシズム(人種差別)をナショナリズムに不可欠なものと捉え、その歴史的成立過程を跡づけた上で、差別禁止法をもつ欧州・国連型、「過去の克服」の一環として刑法により規制されるドイツ型、差別行為は禁止し言論の自由は擁護する米国型と分類し、反レイシズムという政策がない日本で欧米での問題点や限界点の指摘を学術的に持ち込むことの危険性を指摘。それを踏まえて日本の状況について、よるべき旅券・ビザ発給主体をもたない旧植民地出身者を入管法を例外という不安定な地位に押し込んだ構造を1952年体制と呼び、60~70年代の朝高生襲撃事件、90年代を中心としたチマチョゴリ切り裂き事件、2000年代後半以降、それぞれの差別扇動メカニズムの相違を分析、日本におけるナショナリズムレイシズムの日本的癒着と切り離しの必要性、さらに新自由主義における反差別の原理である平等の簒奪と、新たな運動としてのBLMの可能性について触れられる。いくつか気になるところはあったが、全体像が整理されており有益、とりわけ欧米の最先端の議論を文脈を除外して持ち込むことの危険性の指摘は歴史学においても重要。

筑摩書房 レイシズムとは何か / 梁 英聖 著