wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

高野秀行『謎の独立国家ソマリランド』

いくつかのところで話題になっているのを知り気になっていたのを思い出して、月曜日の非常勤先で借りてきたもので、昨日仕事終わりの実家への様子見で読了(最大の用事をすっかり忘れてしまったが)。1960年6月26日にイギリスから独立したソマリランド共和国と、イタリア植民地から信託統治になっていたソマリアが、7月1日に合併してソマリア共和国が建国された。しかし1982年には旧ソマリランドで反政府武装闘争がはじまり、1991年には中央政府も崩壊し内戦に突入した。このうち旧ソマリランドの主要部分は二度の内戦を経て、1996年にソマリランド共和国憲法制定・複数政党制導入・武装解除が実施され、2003年の大統領選では80票差を両勢力が受け入れるなど、アフリカにはまれな民主主義政体が継続している。その謎を探るべく著者は2009年にソマリランド共和国を、2011年にはケニアのソマリ人難民キャンプ、ソマリランド共和国ソマリランドと国境紛争を続けソマリアの一部だと主張する海賊国家ブントランド、ディアスポラが樹立したガルムドゥック国、旧ソマリアの首都で氏族諸勢力とアルカイダともつながるイスラム武装勢力アル・シャバーフの入り組んだ内戦が継続しているモガディショなどを取材した。その後もそこで培ったコネクションを維持し、日本で唯一のソマリ専門家(ソマリは民族名)として、ソマリア共和国建国以来の現代史を、カート宴会(麻薬の一種)を通じて得た現地の人々の本音をもとに記したもの。遊牧民を出自とするソマリ人は個人主義で行動が素早く交渉ごとも得意だという。彼らは擬制血縁集団である氏族に帰属意識を持ち、ヘール(契約・掟)により行動し、氏族単位の復讐が日常茶飯事の一方で、ビリ・マ・ゲイド(殺してはならないもの)・ディヤ(賠償金)・中人(ソマリ語は記されず)など「戦国の作法」がある。とりわけイギリスが間接統治したソマリランドでは長老(グルティ、ピース・キーパー)の機能が強化された結果、内戦が外部勢力の介入なしに解決され、直接選挙の大統領、特定氏族に偏らないよう構成された政党による議会、暴走する政治家を制御する長老院からなる政治制度が機能し、国連にも承認されないまま言論の自由があり治安のよい国政が継続しているという。海外ディアスポラからの送金、安価な無線LAN・携帯電話の普及も一役買っているようだが、極めて中世的原理が機能しているらしい。また中央政府が崩壊して増刷されないため価値が安定している貨幣や、攻撃されない代わりに現支配権力に税金を払う企業などの習慣も興味深い。アル・シャバーブ支配地域に住みながら毎日黒いベールをまとって通勤しテレビカメラに顔をさらす20歳そこそこのホーン・ケーブルTVモガディシオ支局長の女性など、極めて個性的な人々の姿も活写されており一気に読んだhttp://www.webdoku.jp/kanko/page/9784860112387.html。それにしても仕事が順調に減っている。来年は本気で職探しをしなければならないようだ。