wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

井上勝生『明治日本の植民地支配』

本日は月曜日の代替で大教室で講義。春と比べて教室の設備も悪く、受講者も・・・。そういうわけで電車読書は進み、維新期の講義で利用させてもらっている著者の新著を読了するhttps://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/02/4/0291110.html。1995年7月に著者が勤務していた北海道大学で、直前に退官した考古学教員が管理していた「標本庫」から放置されたままになっていた頭蓋骨など6体分が発見された。それに関する文学部調査委員会が、「東学党首魁」と墨書されていた1体、ウィルタ民族との付箋がつけられた3体、退官した教員の三つに分担して組織され、そのうち「東学党首魁」の調査責任者となった著者が、翌年5月に韓国に返還されるまでの経緯と、その後の研究の成果をまとめたもの。全体は日清戦争期に日本軍によっておこなわれた東学農民軍殲滅作戦の実体解明と、北大の前身である札幌農学校の関係者がアイヌ政策・朝鮮農政に果たした負の役割を明らかにしたものだが、無味乾燥な学術書ではなく調査責任者になってからの著者の各地での現地調査と史料収集過程を明かしながら叙述されており、読み物としても続きが気になる構成になっている。手間暇をかけないことで低コストを実現していた朝鮮在来棉作と日本が導入しようとしていた「園芸的」農業の乖離。1対300ともいわれる日本軍と農民軍の圧倒的火器の差の一方で地の利を活かした農民軍の行動。奇兵隊から東学農民軍殲滅作戦まで第一線に立ち続けた長州閥軍人。近代になってから共有財産管理を実現させたアイヌとそれに協力した日本人がいる一方で、それを破綻させた札幌農学校校長の乱脈経営が大学史で隠蔽され続けたこと。新渡戸稲造アイヌ・朝鮮に対する強い蔑視と有島武郎アイヌへの共感。赤貧の中で徴兵された日本兵と(なかには男一人で育てていた幼子を殺して出征させられたとの新聞記事も)、殲滅作戦の実像を記した従軍日誌を清書して残した兵士。軍戦史から隠蔽されたため戦死した場所まで変えられてしまった日本兵など、具体的事実も大変勉強になった。各地での墓石の追及など徹底した個人史を明らかにしながら全体がまとめられているのも興味深いところ。