wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

北見俊夫『川の文化』

日曜日は某全国学会。準備に少し関わったこともあり発言はせず、司会のさばきの見事さに感服していた。会場では久しぶりにお目にかかった何人もの方から、暖かい声を掛けていただく。本当に有り難い限り。これで少しやる気にならなければならないのだが、せっかく休日だった月曜日もだらけてしまい、某研究会の準備報告さえなかなか進まない。それでも何とかルーティンの仕事だけはこなし、電車読書で読了したのが本書http://bookclub.kodansha.co.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=2921847。1981年刊行だが今年の夏に文庫化され、近年の関心もあり購入したもの。佐渡生まれで関東の大学で教鞭をとった民俗学者という経歴から、利根川北上川など東国の事例が中心だが、交通・漁労・橋・年中行事・誕生と葬送・山の神信仰・民俗芸能といった基礎的な問題が取り上げられており、頭を整理することができた。とりわけ丸木舟からはじまる川船の種類と名称が多数紹介されているのは興味深く、古代・中世を通じての川船の構造変化を考える必要性が認識できた。また川が有する遮断性と流通性という両側面が諸事例から説明されている点も、改めて再確認できた。なおあとがきでは、書名・著者名はあげられていないが、日本中世史の分野でのユニークな業績として非農業民・職人・川の民・河原などのキーワードが記され、著者が何を意識しているのかが示されている。本文の中でも橋に関する叙述などは明らかにその影響を受けたものになっているが、橋そのものが歴史的産物で(これもいくつかの口頭報告をしたきりになっているが・・・)、本質論よりもむしろ歴史的展開が示唆されているところにこそ本書の価値は見いだされるべきだろう。