wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

豊下楢彦『「尖閣問題」とは何か』

今週は三日連続で御堂筋はわざと遅らせ。来年度の財政破綻も確実になり、蔵書を処分して家賃が安く影響を受けないところに引っ越すべきか悩みどころ。そういうわけで、電車読書などというのんきな行為もいつまで続けられるかわからないが、とりあえず本日読了したものを整理しておくhttp://www.iwanami.co.jp/moreinfo/6002730/top.html。領土問題などには興味はないが、『安保条約の成立』など著者の書くものは面白かったので購入してみたもの。尖閣諸島は政府が購入した3島以外に、米軍演習場として提供されている2島があること(1島は国有地、1島は所有者に政府が毎年2000万円の賃料を支払い)。にも関わらずアメリカからの沖縄返還の際に、米政府が大陸中国および台湾への配慮および紛争の火種を残し米軍のプレゼンスを正当化するという「オフショアー・バランシング」戦略から、領土問題については「沖縄の一部」から「中立の立場」に転換したこと。法的には二島返還しか根拠のない「北方領土問題」・米国地名委員会で韓国領と認定され単なる岩礁に過ぎずむしろ「植民地問題」としての性格が強い「竹島問題」を早期に解決すべきこと。その上でジャパン・ハンドラーの手のひらにのった日米同盟強化でも、NPT体制を崩壊に導く核武装でもなく、日中両国の「単独行動主義」をこえた平和憲法に基づく「第三の道」こそが「現実的」だと説かれている。竹島を巡る米韓関係の叙述にはやや不満が残り(朝鮮戦争の最中に韓国が単独で李承晩ラインを設定できたとはどうしても思えない)、再度日米の「捨て石」になりかねない沖縄についての喫緊の解決策に触れられていないのは残念だが、「領土問題」をアメリカの対日戦略として読み解く方法はいろいろ勉強になった。野田首相尖閣国有化方針を発表したのが、日中開戦の7月7日という「最悪のタイミング」だったというのも早速授業で使わせてもらった点でも有意義。もっとも国政は著書とは全く逆方向に猛進するようで、どういうカタストロフィーが訪れるのだろうか・・・・。今となっては「守るべき」家族も生活もないのが唯一の幸い。