wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

早瀬晋三『マンダラ国家から国民国家へ』

相変わらず暑い。特に熟睡できず夜中に何度も目が覚めてしまうのはつらい。窓を開けると追い出した鳩が別の部屋に居着いたようで、早朝からうるさいのもそれに拍車を掛けている。もう一晩中クーラーを付けっぱなしにするしかないか。そういうわけで採点がはかどらないまま、次の試験が覆い被さってくる状況で、電車読書も終わらない。本書は6月に書店で見かけたものだが、全くぼけていて2週連続で購入してしまったものhttp://www.jimbunshoin.co.jp/book/b100762.html。表題のマンダラ国家とは、東南アジアの諸国家が王の神聖化を軸に権力を形成したが、中央集権化の妨げとなった極めて流動的で不安定な政体を指す概念。そこに欧米による19世紀後半の植民地化のなかで、中央集権的な統治機構が主都など都市部から導入され、植民地官吏の不足から近代的な教育がエリート層にもたらされ支配に組み込まれるとともに、経済開発によって輸出用商品作物産業が発展し、中国人・インド人移民が流入するなどの状況が生まれた(「朝貢国」を失いながら独立を保ったシャムも同様)。そういう状況下でおこった第一次世界大戦は、植民地支配進展の頂点であるとともに、宗主国の弱体化により支配を利用して新たな国づくりに着手する機会を与えるものとなり、経済的には日本の「南進」を招くことになった。その上で東南アジア各国の国民国家形成過程が第二次大戦後の独立までたどられ、最後に歴史教科書での第一次大戦の叙述が比較される。教科書叙述の比較はヨーロッパ・日本・中国・韓国・ベトナム・タイで少しずれているが、それ以外は東南アジア全体に関する19・20世紀の通史になっており、コンパクトで全体状況がわかりやすく論じられている。あとがきによると、フィリピン史が専門の著者にとってはカンボジアの植民地化以後の研究がほとんどないなど大変苦労したということだが、自負されているように東南アジアの歴史像を理解する上では有益で、後期の講義にも組み込みたいところ。その点で2冊分とまではいえないが、1冊分の価値は充分にあった。