wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

栄原永遠男『正倉院文書入門』

今日は風邪で声をからしてしまったが何とか授業を終え、昼からは北山で史料めくり。刊本の誤り探しは目が疲れたが、新出史料もみつかり有意義な機会となった。どうも風邪と花粉症が併存しているようで、体質は老化に向かっているらしい。某所では思いがけず「若手気鋭の中世都市研究者」と評されたが、稼ぎと業績は若手並みでも年だけはすっかりとってしまい、著者のゼミで正倉院文書研究のイロハを学んだのももう24年前のことになる。奈良時代にさまざまな部署で作成された文書が廃棄され、その紙背を利用して写経所部局の帳簿群が作成された。その文書群はいつしか正倉院に収蔵され、近世に再発見されることになった。ところが幕末の国学者穂井田忠友以下は、最初の段階の文書に押されていた印などに注目して、もう一度紙背を逆転して整理し直したため、写経所帳簿群はバラバラにされてしまった。それを公表されている接続に関する情報・写真などをもとにして、もとの写経所帳簿群に復元することを目的としたゼミがはじまった年に大学院に入学したため、修士課程の2年間単位取得のため受講することになったのである。さすがに中世史専攻ということで少しは負担は軽かったが、それでもゼミ発表は数週にわたって続きかなりの準備をしなければならなかった。本書にも記されているようにその手法はまさに「古今伝授」の世界(口伝と手取り足取りによる継承)で、中世の紙背文書を考える上でも計り知れない恩恵を被ることになったが、最初は途方に暮れたものだった。そうした昔の思い出を再び呼び起こしてくれたのが本書で、改めて史料に取り組む姿勢を学ぶことができた。それにしても参考文献にもゼミ関係者の名前が多数並んでおり、著者のゼミがこの分野で果たした役割の重要性が改めて認識されるhttp://www.kadokawa.co.jp/book/bk_detail.php?pcd=200308000158