wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

赤松啓介『夜這いの民俗学・夜這いの性愛論』

木曜日に本日の授業準備だけ済ませ、金曜日が学祭休講だったため四日間原稿書きに集中し、本日未明に何とか完成させて送ることができた。おかげでそれ以外の記憶が飛んでしまい、本日の講義はふらふらしながら進めたが、そちらも切り抜けることができた。電車読書のほうは全く今更ながらなのだが、先日某古本市でもう一冊とセットで見かけて購入したものhttp://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480088642/。著者が戦前に行商で回った播磨中部と、奉公先を転々とした大阪の商家での性風俗をつづったもの。村のほうは興味深いのだが相手を憚ってか地名が全く避けられており、史料として利用するのが困難になっているのが残念なところ。収集したノートなどが残っていれば別なのだが。また戦前に共産党員として地下活動をしながらの行商だったにも関わらず、性風俗になると村人相互間の夜這いと主人と女中・奉公人間のそれが区別されずに論じられている。確かに教育勅語的な性倫理が存在しないことは明らかなのだが、村人相互もふくめてさまざまな権力関係も考慮しなければこの問題はよくわからないところ。一方で商家については、昭和初期の都市中下層の実態がかなり詳細にわかりいろいろ勉強になった。とりわけ女中奉公における親出し・身許受け・口入屋の区別など複雑な契約関係(本人も自覚していない)や階層性についての指摘は貴重で、こういう史料に残らない人的ネットワークを理解しないと当該期の都市を捉えることはできないだろう。とはいえこれからの歴史学でどういう方法が構築できるのかは大きな課題。