wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

青木美智男『日本文化の原型』

今年で二年目となる月曜日の概説は教職の単位にもなっている通年のものということで、通史を意識しなければならない。その際にもっとも困るのが近世史で、いつも織豊の次は幕末維新というのが通例になっていた。高校生向けに大阪学を受け持った時に、近世大坂の勉強はかなりしたので少しは取り入れられるようになったのだが、やはり不十分なまま。研究は多数あるのだが何しろ個別分散的で、なかなか組み込めずにいる(感覚だがもっとも新書が少ないのが近世ではないか)。そういうわけで図書館から借りてきて読了したのが本書http://www.shogakukan.co.jp/books/detail/_isbn_9784096221174。まず近世社会の特徴を捉えた上で、家屋の変化(ねぐらから住まいへ)、識字と学習の実態を文房具・出版物の流通から照射、食の展開と産地形成、芝居の普及と旅といった生活文化から、近世社会の展開が語られていて非常に興味深く、いくつかの論点は授業にも組み込むことができそうだ。もちろん建築で金閣銀閣の相違が取り上げられているように、ものと生活文化の展開は近世史という枠組みを超えて15世紀から説き起こさなければならないもので、やや不満も残るところ(丹後縮緬の初見史料はこのあいだ発見した)。また身分制社会の貫徹が身分の上昇志向を断念させ家産を発展させることになったというライシャワーの近代化論が肯定的に評価されているが、政治批判は抑圧する一方で経済的欲望の開花は是認するという体制がもたらした刻印についても、現代日本では批判的に考えなければならないだろう。そういう疑問はあるが、こうしたスタイルを意識した研究が登場したことは歓迎されるところ。さあこれから授業準備・・・。今年度から通っている非常勤先から来年度の書類が送られてきた。打診がないので気になっていたら、知らないうちに「ご快諾いただいた」ことになっていたらしい。何はともあれ図書館も利用できてとりあえず一安心。