wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

元木泰雄『河内源氏』

昨日は値段につられて地下鉄の割引カードhttp://www.kotsu.city.osaka.jp/m_price/jyousyaken/110930osaka-marathon2day.htmlを購入したのだが、直通で結ばれている阪急の改札口では認識されず駅員もいなかったためモニターで呼び出しようやく抜けることができ、帰りの地下鉄も止められてしまった。自動改札が対応できないカードを販売するのは余りにもずさん。電車読書のほうは昨日でかなりのところまで進み今朝の地下鉄で読了したのが本書http://www.chuko.co.jp/shinsho/2011/09/102127.html河内源氏流について頼信・頼家・義家・義家晩年からの混乱・保元の乱平治の乱について述べられ、最後は頼朝の挙兵で締めくくられている。全体はコンパクトにまとめられ、それぞれの政治的立場についての叙述はいろいろ勉強になり、自力救済に生き敗戦でも最後まで逃れようとする為朝・義朝と、京武者的な世界につかりあっさり降伏する為義などとの対比は興味深かった。その一方で積極的に武士と婚姻関係を結ぶ藤原信頼のような指摘もあり、義朝の自力救済路線のある意味での結実ともいえる鎌倉幕府の成立とは異なる道もあり得たことが、想定されているように思える点も重要だろう。その一方で「鳥羽院最大の近臣藤原家成」「鳥羽院第一の近臣藤原家成」が見開き両頁(142・143)に記されるなど叙述のダブりが散見され、先行研究に対する厳しすぎる批判もたとえ正当であったとしても新書媒体では気になるところ。また石母田説や義家に結集する「随兵」を諸国に散在する地方武士とみなした説など克服された説をことさら取り上げて、「労働組合全盛期のような階級闘争を絶対視する歴史館の所産」などと戦後歴史学を戯画化するのは抵抗感がある。そもそも武家棟梁賛美論は戦前からある構図で、京都の領主制論が黙殺されているのも残念。保元・平治の乱についても『保元・平治の乱を読みなおす』(2004)を発展させたものだが、前著にあった「かつて拙著で、後白河側近の信頼らと二条側近の経宗・惟方が反信西で野合したが、信西を打倒したあとで日頃の対立が再燃し、分裂したと説いたことがある。だが」といった冷静な姿勢がやや欠けているように思える。