wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

河上麻由子『古代日中関係史』

明日から泊まりがけのお出かけということもあって、読みさしの電車読書を片付け。四月からの講義(3年目の「外来文化と日本の歴史」)に向けて、少し前の刊行だが評判よさげということで購入してみたもの。遣隋使の「天子」自称は中華思想的な意味ではない、遣唐使は一代一度朝貢、といった点は勉強になったが、いくつか違和感。最初に「歴史的事実ではない」という注釈が入っているとはいえ、倭の五王段階から全て第~代天皇と表記する必要があるのか。そもそも倭の五王は複数王統説が有力だと思うだが、『日本書紀』に基づく系図がそのまま示されている。遣唐使において「天皇」を用いずスメラミコトと表記されたことに触れられていない(否定しているわけではないのだろうが)。一代一度朝貢説はありうるのだろうが、そのため叙述が国内事情に終始し、狭義の外交のみで文物の摂取・藤原京から平城京への転換などもスルーされており、こちらの目論見とはズレていたのは残念。

古代日中関係史 -河上麻由子 著|新書|中央公論新社