wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

都出比呂志『古代国家はいつ成立したか』

最初に弥生時代から律令国家成立までを概観し、その上で都市・国家の定義と著者の見解が示されている。全体に非常にわかりやすい文章で書かれ、図も有益なものが多く採用されており、一般向け概説書のお手本というべきもの。都市論のなかで某氏の見解に触れられていなかった点は少し気になったが、異論に対する批判も過度に攻撃的ではなく節度あるもの(そもそも新書は学術論争の場でないはずなのだが、最近は人の研究を一方的に批判したり、変な整理をしているものがある点は以前も取り上げた)。やや意外だったのは弥生開始期の炭素年代と、律令制下の双系制説を受容している点。特に前者は外からはよくわからず概説の講義でも曖昧にしているが、これで決まりなのだろうか。後半の理論的にも踏み込んだ都市・国家論も興味深いのだが、「国家が存在したのか」という問すらある中世史からみると、厳密すぎるような気がしないではない。むしろ古墳時代の大王・首長の領域と物流として提示されている分散的なモデルや、地方権力が中央政権を認めた3世紀段階で初期国家とすべきだという点のほうが後代につながるのではないか。とりわけ「成熟国家」の定義を「公地公民」に求めるが、一人一人の人間を直接掌握するのは前近代ではむしろ例外的で、氏のいう初期国家概念を広げたほうが中世国家を考える上で有益ではないか。なお最後に氏の生い立ちが率直に記されており、安保闘争との関わりなど学問への姿勢がよく分かるとともに、氏を大阪大学に迎えた黒田俊雄の考える新しい歴史学が再認識できた点でも有益だったhttp://www.iwanami.co.jp/hensyu/sin/sin_kkn/kkn1108/sin_k607.html。明日は大雨のようで、60部刷ったレジュメ(やはり不親切な内容)をかついで歩き、大幅に余らすことになりそうだ。多数の来場をお願いします。