wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

山室信一『複合戦争と総力戦の断層』

本日は久しぶりに電車に乗り、図書館で執筆中の論文に関わる自治体史を閲覧するも史料編がなくわずかな手がかりが得られたのみ。結局は当然持っていてしかるべきにもかかわらず高価なため購入をためらったままになっている本を借り、書店で電車読書用の新刊書を購入して、壊れた家電を補充して一時帰宅。夜は年寄のご機嫌伺いに寄るという、ノーマイカーフリーチケットを活かした安上がりに。そういうわけで電車読書を再開し、書店で著者の名前のみを見て購入した本書を読み終えるhttp://www.jimbunshoin.co.jp/book/b67954.html。日本史では日英同盟による対独参戦とシベリア出兵などエピソード的に語られてきたものを再検討したもので、期待にそぐわず面白い。大戦を世界戦争と認識したのが日本人で対米戦争が想定されるようになったこと、同盟により無条件に参戦したわけではなくイギリス側に日本の権益拡大に対する警戒感が強かったこと、海軍では当初は中立志向があった一方参戦後は積極的に南方への進出に向かったこと、威嚇すれば目的を達成できるという日本の志向が中国のナショナリズムに火をつけるとともに、米とも対立を深めたこと、シベリア出兵が革命干渉ではなく傀儡政権樹立と北樺太の石油確保の意図により行われたが作戦的に失敗に終わり、ソ連の対日感情悪化のみを招いたこと、総力戦と認識しながら兵器体系は日露戦争期の歩兵銃のままで機関銃に更新されなかったこと、総力戦への物資不足認識から軍内部で短期決戦精神論と対中進出自給圏論が併存したまま展開することなど、その後日本の進路の要因が既に胚胎していたことが示される。歴史の転換が表層よりもその前にあることが活写され、自らの研究にも学びたいところ。そうはいっても2週間弱で40枚しか進んでいない。執筆前に期待が大きすぎたためかどんどんへこんでしまっている。今月中には初稿を終えたいところなのだが。