wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

榎本渉『僧侶と海商たちの東シナ海』

昨日は別の曜日の授業プリントを鞄に入れていることに気づいて、あわてて家に取りに帰る羽目になった。幸い早めに家を出ていたため、少し電車賃を余分に払うだけで助かったが、後期になって二度目のこととなる。土日に授業準備をすませて5種類分をファイルに入れておくのだが、違うものと取り違えてしまう始末で、注意力散漫という他ない。一方で電車読書はすすみ二日で読み終えたのが同書。9世紀から14世紀までの僧侶の渡航記録を網羅して、遣唐使船に便乗するしかなかった9世紀初頭まで、新羅海商などが活動することで往来が容易になった9世紀後半、国家が渡航を許可しなくなり特別なパトロンの支援を受けることができた僧のみが渡航した10・11世紀、密航による渡航者が出現する11世紀後半以後、渡航制限がなくなり爆発的な渡航者が出現する12世紀末以降、その間の日元関係の険悪化による渡航困難期(1275年から10年ほど、1335年から1342年など)、元滅亡期の混乱期を経て、明による海禁政策により自由な渡航の断絶と、日中禅宗の乖離までの経過が述べられる。10世紀の評価や、博多研究との関係などいろいろ気になるところはあるが、全体像は明快で興味深い。また僧侶の人名索引が付されている点も有益である。ただし註が全くないため、未完史料が多数利用されているはずにもかかわらずアクセスが困難な点、本来は註で記すべき文章が本文の中に組み込まれているため、一部に冗長な印象を与えてしまうところがある点は問題かもしれない。なお私自身は人よりも物の動きに興味があるのだが、その点は自らの課題としておいておこうhttp://shop.kodansha.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=2584689