wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

西谷修『アメリカ異形の制度空間』

本日は九月の台風で流れた火曜講義の補講、おかげで週二回も大人数相手となり、夜のカードチェックでそれぞれ二日つぶれてしまうことに(受講者は火曜日の3/4ぐらいの感覚だったが)。ちょうど環大西洋革命まで進んでいたこともあって、先日衝動買いしたものを読了http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062586375。その備忘を簡単に。この間の社会運動で何度も街頭演説に立っておられることで名前は存じていたが、著作を読むのははじめて。911以降のアメリカの動向と新自由主義という現状を踏まえて、歴史を振り返って論じられているもの。フランス思想・哲学をベースとして、「新大陸」が「アメリカ」と命名され、しかも多くが先住民族の地名を利用するのに対して、合衆国(著者は「合州国」と表記)のみがそれを国名とすることがもつ意味の唯名論的追求、土地所有観念のない先住民族を圧迫する孤立した個の所有に基づく自由を絶対視する意識を、合わせながらその世界史上の特異性が論じられている。ただ非常に本質還元的で命題を論証するというスタイルがとられている。著者が参考文献に挙げていない油井大三郎氏の岩波新書でも福音主義的自由と戦争については論じられており、それそのものは理解できるのだが、建国と二十一世紀がストレートに結びつけられているのは違和感がある。確かに一側面ではあるのだろうが、白豪主義から多文化主義へ転換したオーストラリアなどとの比較など、歴史に沿った説明が欲しいと思うのは、当方の無い物ねだりなのだろうか…。