wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

金子拓『長篠合戦』

本日は千里山定期試験、少しトラブルがあったが何とか終了。この間は文字通りの引きこもりで、ようやく電車読書の読みさしを片付ける。講義でも触れているので購入していたもの。従来の通説とその前提となった近代の戦史とそこから展開した歴史小説を紹介した上で、同時代史料から合戦に至る経緯と実像について整理。信長の現地での戦略は防御的なもので、武田方の情勢判断のミスと、徳川方の別働隊による攻撃で、やむなくぬかるんだ難所での一隊ごとの攻撃となり、鉄砲で撃退されたとする。戦争の主軸は徳川方で、当初は鉄砲戦として語られていなかったものが、軍記のなかで「三段打ち」が確立し、18世紀の絵画資料で鉄砲の黒煙が強調されるようになる。さらに近世の「徳川史観」が、近代になって「信長英雄史観」に置き換えられることで、通説が形成されたという。著者は大日本史料の該当部分の担当者で(当方も試験だけは受けたのだが・・・)、多様な史料の示す像を丁寧にたどったもの。講義資料もそろそろ全面的に手を入れなければならないところ。

長篠合戦 -金子拓 著|新書|中央公論新社