wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

井上文則『シルクロードとローマ帝国の興亡』

曜日の巡り合わせで秋の講義は明日から、ただしばらく遠隔のため本日はビデオ作り。ただ少し間があったのと、積ん読がたまってきたという事情で読みさしの表題書を片付け。講義でさして扱っているわけではないのだが、評判を見かけて衝動買いしていたもの。表題はシルクロードとあるが、実際は紅海からインドへの海路のことで、ローマ帝国からはガラス器・葡萄酒・珊瑚が輸出され、南アラブ・東アフリカの香料、インドの胡椒、中国の絹が輸入され、莫大な関税収入が帝国にもたらされ、富裕層も投資など間接的にせよ関わり都市の繁栄をもたらしたという。あとがきで「試論」と著者自身が記すように数字操作にはかなり無理があるように見えるが、交易の様相そのものは興味深いところ。また2世紀にそれが急激に衰退する(近年の気候変動の議論は取り入れられていない)ことによって、帝国そのものが財政難に陥り(ゲルマン人に「年金」が支払われていたというのは初めて知った、宋代と同様か)、特に脆弱な西ローマがあっさり滅亡することになったという。キリスト教の隆盛については気になるところだが(こちらは講義に含まれる)、時代イメージは勉強になった。ただ「日本語のシナ」なる表現はいただけないところ。この前紹介したものもそうだが、いまどきの歴史学者は専門から離れるとかくも通俗的な表現をするものらしい・・・。

文春新書『シルクロードとローマ帝国の興亡』井上文則 | 新書 - 文藝春秋BOOKS