wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

吉田裕『兵士たちの戦後史』

土日は研究会報告の準備で少しは頭を使うことができたが(明日に準備会があり、当ブログでも近日告知予定)、原稿には取りかかることができず、その上に諸事情から断れない報告依頼まで舞い込んできた。色々抱えている方がやる気になると開き直るしかないようだ。そうはいっても外仕事も山積みで、先週からの電車読書で読了したのが本書http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/02/3/0283720.html。軍隊史・戦争史の授業準備でお世話になっていたので、著者名のみで購入したが大変面白かった。大戦の復員兵たちが戦後をどのような意識のもとに過ごしてきたかが、その時代背景とともにまとめられており、戦後直後の周囲から復員兵への冷たい視線、旧軍公職追放の実態、軍人恩給の推移、戦前の在郷軍人会を志向した日本郷勇連盟の活動と限界、一世代前が戦後に進歩的文化人として活躍したことへの抵抗感、企業戦士となった戦中派に対する妻の見方(ムードが全くないという)、戦友会の実態(旧軍の階級による序列化をきらう一方で悲惨な戦争体験を語らない、リンチの加害者・被害者の不参加、戦争指導者としてのA級戦犯への抵抗感)、防衛庁戦史室の推移(旧軍関係者による編纂・史料閲覧の制限から、2000年代の目録刊行と新戦史編纂事業のスタート)、80年代以降のあつれきをはらみながら加害行為への贖罪意識の芽生え、退職・死を契機とした戦争体験の語りの生々しさなど、個別に知っていても体系的にまとめられたことでいろいろ勉強になった。最後に復員兵たちが敗戦国の兵士にありがちな極端なナショナリズムの温床にはならず、軍の非人間的・非合理性を体感したことで、戦後日本の政治文化に大きな規定制をもたらしたことが指摘されている点も重要だろう。この経験を戦争を体験しないことで空想的に捉える若い世代にいかに継承するかは、教壇に立つ者として自覚しなければならない。