wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

吉川真司『聖武天皇と仏都平城京』

読み終えたのは土曜日だが、地震関連に目を奪われてしまっている。昨日からグーグルの被災写真マップとそれ以前の航空写真とを見比べているが、仙台以南で水につかっているのは、地名と地形から見てある段階までは潟湖で、後ニ埋め立てられたところだというのがよくわかる。ある意味元に戻ったともいえるわけで、埋め立て地がいかに危険かが、こういう大災害が起こると明らかになる。それにしても再埋め立てでもしない限り以前の土地利用(多くは水田)は不可能で、軒並み人口の半数近くが失われたリアス式海岸の港町と併せて、復興までの途方もない過程が思いやられる。本書はもともとわりと飛び飛びに読んでいたことに加え、最後に地震でふっとんでしまったこともあって感想は簡単に。講談社という大手出版社が創業100周年企画として『天皇の歴史』というシリーズを刊行しており、その二冊目になる(一冊目はパスした)http://www.bookclub.kodansha.co.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=2807327。一般向けの企画で天皇が取り上げられるのはある種のタブーが弱まったものだが、執筆者は東大・京大の「堅い」研究者で固められているのは警戒心からか。タイトルと直接関わるのは序章プラス八章立てのうち二章分のみで、七世紀後半の天智から九世紀半ばの嵯峨の死までの通史叙述といえるものである。一読しての印象は余りにもスムーズで、非常になめらかに時間が流れていき、何も矛盾がないように見える。個別の主張は納得できるところも少なくないのだが、何か違和感を感じるところ。明日からは西に向かうため、地震情報ばかり見ているここ数日のようにはいかなくなる。帰ってくるまでには福島原発が停止して、災害後の段階に移行していることを願うのみ。