wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

片山一道『骨が語る日本人の歴史』

日曜日は姫路で打ち合わせ、ただプロジェクトの目指すところははっきりせず、某所からの仕事の依頼もまだない。月曜日は講義の後、尼崎で別の会議。検索するとたまたま日曜日関連の書物が別館に所蔵されており、お取り寄せ日にどんぴしゃで隣のホテルに出かけることになっていたという幸運。そんなこんなで電車読書は進み、一度は躊躇したものの、再び手にしたときに伏見人骨の記事を見て衝動買いしてしまった人類学畑の骨考古学者による一般書http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480068316/。筋肉群の発達・前に突き出る鼻骨・エラの発達など明らかに区別可能な縄文人骨(食生活は地域によってかなり相違しているはずなのだが)。明らかに渡来系の弥生人骨が存在する一方で、かなり地域性が強くしかも近畿地方は出土事例が少なく縄文人骨とよく似たものも出土していること。大型古墳の被葬者は概して大柄で、横穴墓・円筒埴輪棺と階層が下がるにつれて小型化する、歯の噛み合わせが庶民層では縄文人骨を継承するも、上位層は生肉をかぶりつく習慣が減り相違しているとともに、庶民層でも縄文人骨ほど顔の彫が深くなくなり、骨格の骨太さ・頑丈さも目立たなくなること。出土事例は希少なものの、奈良・平安時代から背丈が低く、頭が前後に長く、口元が突出し気味の江戸時代まで続く特徴がみられ、歯の噛み合わせも変化していくこと。体型はずんぐりむっくりで頭の形も中頭から長頭に変化していくこと。その一方で近世にかけて階層差・都市農村差などが目立つようになることなどの変化がまとめられている。その点では有益なのだが、前半と後半で同じ話が繰り返され、著者の問題関心に規定され、縄文人のルーツ探しや弥生大量渡来人説への批判に紙幅が費やされる一方で、中近世の階層差・地域差にはあまり触れられていない(成立期武士の身体的特徴の有無・身分と体型などやってほしいことは山ほどあるのだが・・・)。また教科書における縄文・弥生の扱いが小さすぎるという批判の一方で、歴史の主人公たちの人物像、生き方死にざまを描け。各時代の頭骨さえあれば写実的な人物像が復元できるとする一方で、まぶた・髪の毛・耳たぶなど軟部組織を復元するのは不可能など、矛盾する叙述が多数あり、最後は単なる放言集になっているのは残念。