wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

蛯原一平・齋藤暖生・生方史数編『森林と文化』

本日はルーティン姫路。二日連続で一日中ディスク・ワークをヘロヘロになりながら何とかこなす。相変わらず通勤は背中に痛みが出るほどの爆睡状態だが、ようやく表題書を読了https://www.kyoritsu-pub.co.jp/bookdetail/9784320058286。以前に紹介した森林科学シリーズの一冊で、「森とともに生きる民俗知のゆくえ」という副題につられ衝動買いしていたもの。本全体としてはバランスはよく、編者連名による導入とまとめが配置されており、前半はアフリカ・東南アジア・カナダ先住民のケース・スタディ、後半は日本国内における和紙・マタギ・山菜とキノコ・保護行政について取り上げられており、全体が見通しできるようになっている。執筆者も森林学というより研究者自身も現場にはいり実際に取り組むという文化人類学的手法(本書では翻訳者と表現)がとられ、民俗知と科学知の地平とまじわりについて実証的・理論的に示されている。ただ和紙については本書でも原料生産と製紙工程の分離による齟齬が指摘されているが、トロロアオイについてはより深刻な報道がされておりhttps://www.agrinews.co.jp/p47316.html、個別にはいろいろ追求すべき課題があるようだ。

新聞記者

本日は朝一中百舌鳥、印刷にミスがあったがなんとか無事終える。次いで梅田に向かいサービス・デイを利用して表題の映画を鑑賞https://shimbunkisha.jp/。客層は5,60代の男女(女性が2/3)が中心でほぼ満杯。あえてフィクションとは記さず、望月・前川・南らの実写座談会映像を流しながら、大学設置許可をめぐり、日韓ハーフで父も記者だがガセネタで自殺したという設定の韓国人女優と、外務省から内閣調査室に出向中の身重の妻を抱えた松坂桃李のからみを軸に展開、明確な決着を迎えることなくラストとなり、現在進行中の問題であることを強く示唆する。ただそのためキャスティングには苦労したと見え(松坂は以前に見たインタビューでもしっかりしていた)、主演女優の設定がかえって話をややこしくしているのも、日本人が誰も引き受けなかったために思え、内調側には悪役オーラが乏しく、与党政治家は全く登場しない。むしろ暗鬱な現実が続いていることを突きつけられる作品。その上に上映前の広告は幸福実現党で、朝の駅前は維新の大宣伝。対韓敵視政策の最大化は進行し、朝日は全面屈服を猛アピール。なかなか明るい展望は持てないところ。松坂の妻役の「何も知らない」をふりをして「お仕事頑張ってね」が、出演した言い訳を兼ねた「普通の日本人」描写というところか…。

島田周平『物語ナイジェリアの歴史』

本日はルーティン姫路、土日出勤の疲れと不摂生が重なりヘロヘロだったが何とかやり過ごす。そんなわけで遅々とした歩みだが、ようやく衝動買いしていた表題書を読了www.chuko.co.jp/shinsho/2019/05/102545.html。全く著者に対する予備知識はないが、サハラ交易・奴隷貿易から、英植民地支配・独立・ビアフラ戦争、石油大国化から近年のボコ・ハラムまで、諸民族の生業と関係性から有機的な連関を持って説明されており、大変勉強になった。奴隷貿易の影響に関する諸研究(奴隷狩りが激しかったところでは、現代でも社会組織に対する人々の信頼性が低いという)、悲劇的結末からとかく美化されがちなビアフラ戦争の複雑な背景、当初は少数民族地域に根強い支持があったボコ・ハラムなど歴史的背景によってみえてくるものがあるようだ。スーダンが分裂してしまった結果、南部キリスト教徒地域と北部ムスリム地域が共通の国家を形成し、しかも民族構成はそれ以上に複雑というナイジェリアは今後の世界を見る上でも大きな意味を持つように見える。明日はこの日曜出勤の代休、少しは色々整理したいところ…。

バーツラフ・シュミル『エネルギーの人類史』上巻

本日はルーティン姫路、通勤時に大ミスをしてしまったが、何とか事なきを得る。先週末の東京往復もほぼグッタリしており、本日ようやく表題書を読了。2011年を経験してエネルギー史をやらなければならないと公言しながら全く果たせないまま、書店で見かけ衝動買いしてしまったものhttps://allreviews.jp/review/3260。ただし当方が考えたライフラインに伴う狭義のものというより、本書は狩猟・農業生産・動物による輸送・土木工事なども含めたエネルギー必要量全般を扱ったもので、本巻は先史時代・伝統的な農耕・産業化以前の原動力と燃料と、産業革命以前を対象としたもの。世界史的な動向は整理されており、木炭製鉄に伴う森林伐採の激しさなどいろいろ勉強にはなるが、やや当初想定したものとは異なる印象。購入していない下巻で化石燃料文明を論じた最後に、世界の歴史の中のエネルギーとして総括がされるようで、本巻は淡々とした叙述のみで、エネルギーを計算するためのコラムと称する部分もかえって邪魔。著者のバックボーンもわからないままで、中途半端ではあるものの読み進めるべきかどうか迷うところ…。

またまた国保という絶望

今年度の国保税通知書が到着。申告収入の10.2%、基準所得の18.5%が強奪されることに。あまり知られてはいないが、この算定基準は明らかに非正規独身税。めぐまれた階層の年金切り下げが見通されることはあっても、はじめから政府にも正規雇用にも見捨てられている世界。維新の会・吉本・マスコミ連合による破壊が決定的となった大阪脱出計画は本格化するつもりだが、どこに逃れても根本的な解決になるわけではない…。

鈴木透『食の実験場アメリカ』

本日は組合委員会で外出。火曜日が時間調整休講だったこともあり、ようやく読了した電車読書の備忘www.chuko.co.jp/shinsho/2019/04/102540.html。これまた後期の講義のこともあり、余り期待せずに衝動買いしていたものだが、意外と掘り出し物。アメリカとは現アメリカ合衆国のことだが、食文化においては先住インディアンのトウモロコシ・カボチャ・豆食文化、アフリカ黒人の米食・鶏料理によるもてなし(フライドチキンに進化)、西インド諸島タイノ族の低温丸焼バルバコア(バーベキューの語源)が、入植白人とハイブリッドに融合して成立したこと、独立後のドイツ系(トマトケチャップ、ハンバーグ)、イタリア系(ピザ)などによるさらなるクレオール化、ピューリタン的禁酒運動による炭酸飲料の健康植民志向に末にうまれたコカ・コーラ、効率化と台所の進化・自動車対応の結果としてのファーストフードの膨張、ヒッピーによる対抗食文化とビーガン、新自由主義の結果としての貧困層の肥満化と対抗するものとしての新しい農業モデルの志向といった歴史的展開が示され、従来のねじれていたアメリカ型多文化主義と自国中心志向を、国際協調主義と公的世界の再構築へと意識転換する手がかりになるものとして食文化史の射程が示されている。小ネタ的にもいろいろ有益であるとともに、先の岩波新書で政治史の刷新を主題にしていた記憶史などアメリカ史の最新研究と食文化史のリンクについても最後に明確にされており、その意味でも勉強になった。食生活史料は細々と集め続けており、いずれ自身でも形にしたいところ…。お東大先生騒ぎで昨日のアクセスが桁外れになっているようで、某氏のネット上での影響力には驚くばかり。

岩崎育夫『アジア近現代史』

本日はルーティン姫路、懸案になっていた事態が少し前進、うまく転がってくれれば面白くなりそうなのだが…。通勤は相変わらずヘロヘロだが、ようやく表題書を読了www.chuko.co.jp/shinsho/2019/04/102538.html。これまた秋の講義準備のため衝動買いしていたもの。中東(イスラーム)を除き、南アジア・東南アジア・東アジアに分類し、それぞれ独自の宗教をもつ土着国家と定義し、以後の歴史過程を内部勢力(自律)と外部勢力(他律)の相克として、モンゴル帝国の支配、近代ヨーロッパによる植民地国家の成立、近代日本の軍事進出、第二次大戦後の独立とアメリカの軍事関与、開発独裁以後のアメリカとの経済関係による工業化、という時代区分によって描いたもの。視点はオーソドックスだが(モンゴル帝国と近代日本をインパクトの一方で、後に何も残さなかったものとならべるのは斬新)、全体はバランスよく現代の諸問題の起源についても整理されており、初学者にも推奨できるもの。なお中東を外したのは、古代以来の西方との関係を主軸とみたためだろうが、見通しはよくなったという印象は受ける。激動の五月も終わり、時は流れるのは早い…。