wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

水島司編『環境と歴史学』

長らく続いている研究会で長岡京に出向きフランス中世都市史のお勉強。中世都市論全体の議論を整理していただいており、いろいろと刺激を受けることができた。ここ数日はプチうつになっており出かけるときも少し億劫だったのだが、議論にも参加でき懇親会でもいろいろ話ができて少しは元気が出た。やはりたまには人と会話をしなければならない。それはさておき本書は09年度史学会シンポジウムを出発点としたもので、23人の執筆者からなる。ここ数年環境史の著作を少しは読んできた身としては、おなじみの執筆者も少なくないのだが、やはりいろいろ学ぶところがある。とりわけ環境史としては熟していない気がする論文だったが、神仏習合言説が近年では中国の輸入品とされていることは、不勉強ながら初めて知ることができた。確かに引用されている道教経典は天神信仰における「日蔵冥土記」とほとんど同じで、河音先生が存命ならどう反応したのだろうか気になるところ。また楠木正成が棚田と水資源を活用したとする論文は、にわかに信じがたい気も知るのだが現地で確認しなければならない。その他にも中国における農業集団化が漁法にまで影響を与えたという報告、インドの生態系と水利用、バナナ栽培の重要性と考古学的に検出できない問題点など、全く知らなかった論点を学ぶことができた。その一方でインド農業が気温変化よりエルニーニョ現象の影響が大きいということで、西欧の研究成果で得られた地球の気温変化のみで、全体を語れるわけではないことにも改めて気づかされた。今年も欧州は寒波のようだがこちらは今のところ暖冬が続いており、日本列島規模でも一律の変動が起こるわけではない。そういうなかでミクロの要因をいかに組み込んでいくかには、もう一歩進んだ研究が必要な段階にきているような気がするhttp://www.bensey.co.jp/book/2272.html