wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

松尾昌樹『湾岸産油国』

クウェイト・バハレーン・オマーン・カタル・UAE(表記は著者)という産油国で人口規模が少なくイギリス帝国の保護によって成立した王制をいだく国家群についての政治学からの分析。所得税がなく国家収入が石油輸出に依存して国民に高いサービスを提供しているため非民主的な体制が維持されているというレンティア国家仮説、支配王家の一族が主要ポストの分配を受けていることで結集しているため有力な対抗勢力が生まれないという王朝君主制、国民統合の装置、時には人口の9割という多数の外国人労働者を受け入れる一方で自国民優遇政策がとられているという湾岸産油国エスノクラシー(排外主義)という外国研究者の概念を用いて紹介して、石油資源が枯渇すると真っ先に困難に陥る輸入国よりも近い将来に大きな政治変動を迎えることはないと結論づけている。これで大学教員でいられるのだからその分野ではよいのだろうが、データはインターネットで集めて事例の多くも抽象的で全くおもしろくない。目次を見ずにタイトルだけで期待したサッカーなどのスポーツイベントの役割やアフリカ系の人々を代表選手として受け入れている事情や、アルジャジーラのような通信社についても全く触れられていなかった。「現地調査を行い、それぞれの『生の』地域の情報を用いて研究活動を行う地域研究者の一部には、自分が研究対象とする地域に対する批判を受け入れずに、その地域を肯定的に説明する傾向があるといわれる」(178頁)として、自分はそれと距離を置いていることを誇りたいようだが、借り物の理論よりも現地の論理を紹介してこそ、外国研究者として意義があると考えるのは、自分が歴史研究者だからなのだろう。レジに向かう前にそれぐらいは気づいておくべき本だったhttp://shop.kodansha.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=2584786。もしかしたらの飲み会の誘いもあって明日の予定がまだ立たない。どうしたものだろうか。遠方の方は来ないだろうし二日行くべきかどうかも考え中。