wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

趙景達『植民地朝鮮と日本』

本日は今期二つ目の試験、201名分の答案と留学生のレポートが待っている。この間の電車読書は専門系の借り物が続いたので(本日返す予定の本をカバンに入れたまま失念してしまった。来年度第一回授業日が返却期日になっているが、さすがにそこまで持っているのは迷惑か)、久しぶりの紹介になるhttp://www.iwanami.co.jp/hensyu/sin/。1910年から45年までの植民地時代全体をまとめた通史で、新書版には珍しく最後に人名および事項索引も付けられている。基調となっているのは政治文化で、あとがきで述べられる「日本の朝鮮支配とは規律主義と民本主義(教化主義)のせめぎあい」で、「それは、民本主義の勝利に帰したのではないか」というのが結論。近年の植民地近代化論や近代性論に対しては、「朝鮮人の行動規範が植民地化によって徹底的に規律化されたなどとは到底思えない」として、ソウルで筆者が体験した実例が紹介される。そのため近代化・規律化を認める立場の朝鮮知識人については、総督府支配と共犯関係にあるとして評価が低く、むしろ彼らの朱子学的伝統に名指した名士主義的側面が正負を含めて強調されている。またキリスト教徒ともに終末論を唱える民衆宗教が多様に広がっていたこと、三.一運動が大規模ものになった背景としてハーグ密使事件時に韓国皇帝であった高宗の死によって国葬が予定されていたことなど、前代以来の政治文化が引き継がれていたことが述べられる。また総督府支配に対する評価は限りなく低く、朝鮮人官吏は差別的賃金に抑えられているなど中間的協力者を得るのに成功せず、戦時体制についても当局の弾圧・強制の一方で民衆の非協力が目立ち、1943年に朝鮮南部で小学6年生・中学2年生に無記名で偉人を投票させたところ、67%がかつて「匪賊」として大々的に報道された金日成と解答したという。結局総統府の努力は全く無駄に終わったということか、それなりに朝鮮研究はされていたはずだが、異文化に無理解なまま暴力をむき出しにして支配していたようだ。通史のため朝鮮内部・日本人支配者内部などの微細な矛盾には余り踏み込んでいない印象を受けたが、いろいろ勉強になった。それにしてもあの戦時体制のイロハも理解していないNHK会長は何なんだ。財界人というのはあのレベルで勤まるものなのか。大阪市長もそうだがあのレベルで有事立法とか言わないでほしいもの。