wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

佐藤卓己『輿論と世論』

本日は在宅授業準備日なのだが、昨日読了したものの備忘を書き留めておく。そもそも今さらながらのものだが過日古書店で見つけ、価格は定価の半額でこの点の本としては安くないものの(恐らくチェーン店を探せば、もっと安く手に入るはず)、せっかく足を運んだという理由で何となく購入したもの(ただし編集者の送り状が貼り付けてあるのは貴重、宛先は切断ヵ)http://www.shinchosha.co.jp/book/603617/。戦後の国語改革で輿が当用漢字表から外されてしまったため、公論を意味する輿論(よろん)と、空気・民衆感情を意味する世論(せろん)が、同一表記とされたことをだしに、大衆社会状況における「輿論の世論化」について、戦時体制期から小泉政権期までのトピックとともに論じられている。「消えた年金問題」に関して自治労を支持母体とする民主党の一貫性のなさという明らかな事実誤認(社会保険庁自治労は無関係)にいたる労働組合革新政党に対する一貫した否定的姿勢、中国への好意と田中角栄支持を短絡的に結びつける点などは気になったが、全体的には非常に勉強になった。戦時体制期に「宣伝」研究に従事していた人材の戦後マス・コミ研究への接続、45年8月15日の朝日新聞大阪本社版に「国体護持を祈りつゝ球場前広場に涙のお詫びをする民草」写真が掲載されている事実、戦後に実施された祝祭日に関する世論調査の実態、マス・コミの世論調査の設問が抱える問題点など、いろいろ知ることがあり、「戦後民主主義」の抱える矛盾も鋭く指摘されており、メディア研究者の優秀さに感心させられる。本書が刊行された時期以上に著者のいう「世論」の暴走は顕著になっており、「輿論」の復権が待たれるところ。