wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

鈴木康之『中世瀬戸内の港町・草戸千軒町遺跡』

草戸千軒については現地や広島県立歴史博物館も訪れたことがあり、いくつかの概説書とともに著者の個別論文についても勉強させてもらってきた。そういうわけで2007年に刊行された際にはもうよいかと思い購入しなかったのだが、少し前に古本屋で見かけて衝動買いしてしまったもの。一読してやはり個別に目新しさはないのだが、遺跡の位置づけについて改めて再認識することができた点で有益だった。まず河川改修による中州撤去のため全面発掘が行われた遺跡のため、これ以上の面的広がりが調査されることはあり得ない。通常の都市遺跡は生活空間の一部が調査されるため、調査面積の大小に関わらず隣接区域の調査によって評価が変わる可能性がある。そのため調査者が都市全体を語ることをセーブしがちで、多数の調査事例にも関わらず報告書だけが積み重なっていく傾向にある(どことは記さないが)。それに対して草戸の場合はこれまでの調査成果で全体を語るしか方法がないため、逆に著者のような幅広い視野からの研究が生まれることになった。また木製品が地下水によって豊富に保存されてきたため、著者のような結桶の発達史が登場するとともに、木簡が幅広く利用されていたことが判明した。結桶については商品流通史・材木史で利用させてもらうしかないが、木簡という文献資料については他の地域でも利用されていたことをもう少し意識に止めておく必要があり、早急に確認しておくことにしよう。やはり優れた書き手のものは、何となくわかっていたことを意識化させる上で重要だと感じたhttp://www.shinsensha.com/detail_html/03kouko/040-2.html。週末は公募書類を書かなければならないのだが、可能性の低さを考えるとやる気にならない。前任者と同じ研究というのは誰を念頭に置いているのだろうか。