wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

秋道智彌『コモンズの地球史』

先週から読み始め、昨日に読了。コモンズ論の第一人者といえる著者が、沖縄・中国雲南・東南アジア各地における豊富な現地調査経験を元に、海・森・川などにおける多様な生業の共有状況を明らかにしたもので、事例は大変興味深い。また「コモンズの悲劇」という議論が、実際にはその根源は「共有地」に問題があるわけでなく、「自由な利用権」によるものだという批判は、日本中世における「入会」「里山」の成立を考える上でも、有効な視点だと思われる。また中国雲南で行われている放し飼いされた鵜が魚を飲み込んで漁師の元に戻ってくるという鵜飼いがあるというのは大変驚かされ、他にもそれぞれの生業の実態も知らないものが多い。その一方でこれが「地球史」というタイトルでよいのかについては、大いに疑問がある。著者は現代の生態系が抱えている問題を明らかにするには時間変化が重要だという認識からこのタイトルがつけられているようだが、本書の各所で紹介されているこの数十年の近代化・資本主義化による破滅的な影響は、「史」というレベルで考えるには余りにも急激で、本論終章の「グローバル化時代のコモンズ論にむけて」のほうが書名としてふさわしかったように感じる。もっともそこで述べられる「つながり」の再生が必要だという認識は共有できるもので、微力ながら歴史学としてこの問題に取り組む必要があるということが再認識されたhttp://www.iwanami.co.jp/moreinfo/0229060/top.html。授業もちらほら終わり始め、明日は試験というところもある。採点地獄を考えるとゆううつだがその先の休みに期待したい。