wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

丸川哲史『台湾ナショナリズム』

著者は歴史学者ではなく、台湾文学研究者ということもあり、個別の事件(霧社事件・2.28事件など)に深く切り込むことはない。むしろ本論が、第1章日本が見た台湾、第2章大陸中国が見た台湾、第3章東アジア冷戦/ポスト冷戦が見た台湾、第4章東アジア近代が見た台湾からなるように、複数の射程から近現代台湾の像を描いている点が興味深いところ。とりわけ辛亥革命・5.4運動・抗日戦争など大陸中国の動向と台湾との関係の指摘は、大日本帝国の植民地という視点からは抜け落ちていたもので、大変勉強になった。また2.28事件の後に言論緩和期があった事実や、その背景にもなったアメリカの影と戦後台湾政界の動向についても初めて知ったことが多い。国民党独裁への批判が学生による「保衛府釣魚台」(いわゆる尖閣諸島の日本帰属反対)から始まったことも興味深く、戦後における日本・韓国・台湾・米領沖縄および大陸中国における政権および反対勢力の動きはアメリカの動向を抜きに捉えられないことが改めて実感された。http://shop.kodansha.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=2584727&x=B 今日は某研究会にベトナム史の研究者を招いてお勉強。発掘未調査による遺跡破壊、特定の研究者による史料独占など、日本でもよく見られた現象が、ベトナム社会主義の弊害として語られていたのは気になったが、第一線の研究者に素朴な疑問をぶつけられる機会は大変有意義だった。