wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

岡部牧夫・荻野富士男・吉田裕編『中国侵略の証言者たち』

1956年に中華人民共和国で、日本人の戦犯裁判があった。このうち969名は敗戦時に「満洲国」に滞在していてソ連によりシベリア連行をうけ、1951年に中国に引き渡された者。140名は山西省に残留して中国国民党軍として戦い、共産党軍の捕虜となった者。そのなかで45名が起訴されたという。戦犯管理所では中国政府の「人道政策」により、戦犯自らが自発的に罪を認め(「認罪」)、帰国後も(不起訴者は1956年に、起訴者も死刑・無期懲役判決がもとから避けられていたため、もっとも遅い3名も1964年には帰国)「洗脳」(そもそもこの用語のはじまり)された異分子として少なからず迫害を受けたにも関わらず、その多くが「中国帰還者連絡会」に結集して加害体験を語り続けたという。概略についてはすでに知っていたが、改めて事実関係が整理されているのを読むと、その突出性に驚かざるを得ない。戦犯たちに自由で物品の不足ない環境を与えて、自発的に討論によって罪を自白させ、その証拠を検証していく。当時の決して豊かとはいえない中国で何故にこのような特別待遇が実現したのか、しかも抗日運動から鮮やかに権力を奪取して新中国を建設してこのような政策を採っていた中国共産党が、文革によりどうしてあそこまで無惨になってしまったのか(ただし文革期でも暴力ではなく討論で問題を発見するという文化は軍内部に生きていたらしい)、いろいろと疑問は尽きない。なお本書は2005年に中国政府から帰還者連絡会に提供された45名の供述調書のコピーが提供されて発足した歴史学者による研究会が発足し、一般読者のために供述書とその歴史的背景を紹介したものという。このうち背景部分は興味深いのだが、供述書に関する記述は単なる「満洲国史」「三光作戦史」になっていて、史料のおもしろさは全く伝わってこなかった点は大きな欠点である。とかく現代日本では批判が出やすいテーマだけに工夫が欲しかった。http://www.iwanami.co.jp/hensyu/sin/sin_kkn/kkn1004/sin_k528.html どうも花粉症らしい。この時期に何とかして欲しいものだ。