wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

深沢克己『マルセイユの都市空間』

本日は新大阪からバスで片道二時間以上かかる地に公務出張。車で案内していただきいろいろ得るところが大きく、新しい課題も見つかった。さすがにそれだけ時間があると、起きている間もあり読みさしの表題書を読了http://www.tousuishobou.com/sekaishinokagami/513-8.htm。書店で見かけ海港史の専門家である著者の名に引かれて衝動買いしてしまったもの(その後に学会で割引販売されているのを見てしまった…)。パリの新聞に踊る「マルセイユはフランスではない」に代表される「他者性」言説の持つ意味を、古代ギリシャの植民都市マッセリアという起源、中世都市共和国、自由港とレヴァント貿易とコスモポリタニズム、20世紀初頭の全盛期の世界各地から原料を輸入し加工するという商工業複合体としての「マルセイユ・システム」の繁栄、それにも関わらず保護貿易主義による国民共同体からの疎外とイタリア人低賃金移民労働力による「貧困と犯罪の巣窟」という否定的偏見、都市計画の失敗と無秩序な市街地建設、アルジェリア人移民による「アラブ化」の進行と「美観なき都市」という、内発的発展と外発的要因の相互作用という長期にわたる歴史的産物として解き明かしたもの。当方も真っ先に思い浮かべるのは「マルセイユ・ルーレット」(これも本人が名付けたというより、移民イメージが結びつけられたものなのだろう)で移民の町というイメージはあったが、それが幾層にも積み重なっているのは興味深く、イタリア移民がいたことは全く想像していなかった。首都パリ・近隣の大学都市エクスとの対比言説も、どこか大阪を思い起こさせるところもあり、いろいろ勉強になった。ただ市街地の変遷は地図で示されていたが、広域的な地図がなく不勉強のため地名がすんなり頭に入ってこなかったのも確か。