wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

渡辺浩『日本政治思想史』

仕事が始まったと言うことで、電車読書も再開(2・3月はほとんど進まなかったため、十冊以上の本が横積みになったままになっている)。本書の刊行は2010年2月で、手元にあるのは5月刊の第二刷。当方も本屋で見かけてから気になっていたが購入をためらったままになっており、たまたま古本屋で見かけて手に入れた次第。全体の方針を示した序章、儒学を解説した第一章、近世社会の武士および政治体制の特質と儒学の受容を述べた第二章~第五章に続いて、朱子学・古学・安藤昌益・国学経世論などの代表的思想家の思想の特質が紹介され、明治維新を経て第二一章の福沢諭吉、第二二章の中江兆民で締めくくられる。本書の原型は東京大学法学部「日本政治思想史」講義ということだが、平易な文体でそれぞれの特徴と弱点が示されており大変わかりやすい。学生からの刺激を受けながらこういう講義ができ、それを著書として発表できるのはある意味理想的で、著者自身もあとがきで「私は、学生たちに何の不満もない」と断言している。もちろん著者の実力によるものとはいえ、やはりうらやましい限り。当方もほとんど名前と著作名と一行解説ぐらいしかできないというレベルの知識のため、得るところが多大な本だったといえる。その一方で気になったのは頂点的思想家のみで、いわゆる民衆思想については全く除外されており(あとがきで「扱うべくして扱えなかった主題」にも列挙されておらず)、近世から近代への転換についても福沢の視点から余りにもスムーズに叙述されている。確かに政治思想を構想できるのはエリートのみともいえるが、日本史分野でかなり蓄積のある研究分野である民衆思想史との接点が全く見られないのは、やはり残念なところhttp://www.utp.or.jp/bd/978-4-13-033100-5.html。本日は法事で昼に食べ過ぎてなかなか体が落ち着かない。まだ明日の授業の準備も残ったままなのだが、気分が乗らず先にこれを記すことにした。