wsfpq577’s blog

日本中世史専攻、大学非常勤講師などで生活の糧を得ていますが(求職中)、ここでの発言は諸機関とは全く無関係です

鈴木真弥『カーストとは何か』

某原稿に取りかかっているのだが、以前にコピーを取っていたはずのものが全く見つからず。先日めんどくさくて同じく必要な書籍をネット古書店で注文していたのだが、今度は30000円前後。仕方なく交通費を使って非常勤先の図書館へ出かけることに。結局、本日届いたものも借りてくれば良かったというオチ・・・。まあそのおかげで昨日の淡路往復から読み始めた表題書を読了。秋の講義のこともあって購入していたもの。奥付によると著者は慶応の社会学研究科で博士号を採ったかたで、基本的な手法は現地での関係者へのインタビュー。歴史的な制度の形成・展開について簡単に触れた上で、イギリス植民地時代の1932年に、イスラーム教徒、ヨーロッパ人、インド人キリスト教徒、アングロ・インド人(いわゆるミックス)の分離選挙制とあわせて、不可触民(現在はかれらが自称する「ダリド」)だけが選挙権・被選挙権がある分離選挙区および一般選挙区による特別選挙制の制定、それを主張したダリド出身のアンベードカル(後に仏教に集団改宗)と差別には反対だがモラルや心の問題で分離に反対したガーンディーの妥協で導入された留保議席、それを受けた独立後の指定カースト向けアファーマティブ・アクションという制度的枠組みを整理。現在でも共食の拒否・結婚、激しい暴力など根深い差別と、指定カーストという集団概念が逆に意識を持続させる側面があり、留保制度によって一定の高学歴ダリド学生を生んだ一方で、自殺者もみられることが示される。死、人間・動物・自然界からの廃棄物に関わる職業に携わるという構造、かつて同和対策事業に関わって議論されてきた問題など、日本とも類似した状況。そのなかでIT技術の活用・映画などから新しい動きも示されているのも興味深いところ。

カーストとは何か -鈴木真弥 著|新書|中央公論新社